「鳥取県が誇るシリーズ」では、国宝『三佛寺 投入堂』、国宝『普賢菩薩像』、『岡益の石堂』、辻晋堂(彫刻家)、中田正子(女性初の弁護士)を紹介してきましたが、今回は昔話『えすがたにょうぼう(絵姿女房)』です。

   それこそ50年も前、図書館での読み聞かせで知りました。

   ちょうどボランティアの方がページをめくったところに駆けつけた私、「えすがたにょうぼう」と題名を言われたとき、「S型女房?どんな格好しているのか?」と驚いた恥ずかしい思い出がよぎります。

   さて、今夜の一人鑑賞会、主人公のきこりは良き妻を迎えたとたん、「いつもそばにいたい。」という思いから仕事に行かなくなります。

   そこで妙案、絵描きに妻の似顔絵を描いてもらい、それを持って仕事に出かけるのですが、ある日突然に大風が吹き、その絵が城中へと舞い降りるのでした。

   スケベ殿さんが目にするや否や、お決まりの捜索命令が・・・。似た話は、全国にあるような気もします。

   ところで、江戸時代といえば将軍が中間搾取の頂点に立ち、権力を振りかざす封建社会でした。

   それを陰で皮肉る庶民のささやかな抵抗が語りつがれたことに、勝新太郎さん、パパ活議員さん、がまかつ(株)も納得の「スケベ爺に喝!我慢は勝つ!愛は勝つ♫」

   下品は置いといて、痛快娯楽時代劇をどうぞ。

 

★★★★★★★一人読書会★★★★★★★

   きこりは女房を盗られて面白うもない。

   3年ばかりもくゆりくゆりと暮らしとったところへ、耳寄りな話を聞かせる者がおったと。

   「何と、盆の15日の夜には、お城で踊りがあるそうな。殿さんは奥方と連れ立ってその踊りを見られる。その一晩だけは誰でもお顔がすぐそばで見えるけえ、お前も踊りに行ったがええ」

 

   いよいよその日には、大きなマサカリを担いで、きこり姿の踊り手になってお城に着いたって。

   「ああ、かかはあそこに殿さんと並んで座っとる。殿さんといえども、人のものを盗った盗人には違いないけえ、かかもそういう男と並んでも嬉しいことはなかろう。俺が来たことを何とか知らしてやりたい」

   そう思って、踊りの輪に入っただって。

   きこりのなりをした者は他に一人もなし、奥方はすぐ気が付いただって。きこりが奥方の前に来た時に、「おかか まめなか(元気か)、今来たじょ」

   て歌って顔を見ただって。

   そしたら奥方はにっこり笑ったと。

 

   殿さんが驚いて言われることには、

   「俺は笑い顔が見たかったに、見せたことはない。それが今夜はあのきこりが来るたびに、にっこり笑って嬉しがる。俺も一つ真似をして笑わせてみたい」

 

   一人で席を立って、きこりを陰に呼んだだって。

   「お前の着物と荷物をちょっとの間わしに貸せ。わしの着物をお前に着せるけえ」

   言うて、陰で着物を取り替えただって。

 

   きこりは殿さんの席で踊りを見るし、殿さんはきこりの姿で躍っただって。

   ところが殿さんが二度も歌って踊られるのに、奥方が笑わんのだって。

 

   そのうちにデンデンデンデンと、踊りの終わりを知らせる太鼓がなって、門を開けて、踊り子をみな押し出した。

 

   ところが殿さんまで押し出して、門の戸をちゃあんと閉めてしまっただって。

 

   殿さんが慌てて、

   「何をするか。わしはここの殿だぞ。」

   と叫んでも、怒っても誰も気づかず、殿さんも着物はきこりのものを着とるし、城の中へ入れてくれる者がないだって。

 

   そいで、山奥のきこりだった男が殿さんになったんだと。

   「よいかか持たんせ、一生の得だ」

   て言うのはこのことだって。

(『えすがたにょうぼう』)