『世界は一冊の本』の後書に、「わたしと同じ年の生まれだったが、思いがけず早くに逝ってしまったすぐれた二人の俳優、岸田森(しん)、草野大悟への追悼として」とあります。
「不条理は悦びである」役者人生を賭けるに値する不条理とはいったい何か?
もしかしたら、ルーマニアの作家シオランが描く「怠惰、死、自殺、憎悪、衰弱、病気、人生のむなしさ、生まれてきたことの苦悩。」これらを演じることでしょうか。
因みに、彼の有名な言葉「私たちは国に住んでいるのではない。国語に住んでいるのだ。」戦争、紛争の当事者(独裁者)に突き付けたい寸鉄です。
そして、名優お二人への尽きせぬ思いの数々を詩にしたため、送り出す作者の無念さが滲み出ています。
「たとえ死んでも生き返るくらい」早すぎる死に対し、生き返るという最高の演技ができなかったのかと迫る心境に、深い友情が偲ばれます。
長田さんは常に、「書かれた文字だけが本ではない。世界というのは開かれた本で、その本は見えない言葉で書かれている。一個の人間は一冊の本だ。本を読もう。」と煮えたぎるように、読者に呼びかけます。
それなら、今夜の一人読書会、深呼吸をしながら本を読むことになります。
★★★★★★★一人読書会★★★★★★★
役者の死 長田 弘
板一枚 その下は奈落だ
その板を踏みつづけて 一生だ
役者は それがすべてである
チェーホフの ソーニャは言った
「片時も休まずに働いて そして
素直に 死んでゆきましょうね」
難しい芝居を 何よりきみは
楽しんだ 不条理は 悦びである
他人の人生を 生きる仕事
等身大でしか やれない稼業
たとえ死んでも 生き返るくらい
きみはできたはずだ できなかった
★★★★★★★岸田森★★★★★★★
(1939~1982)
66年、文学座を退団し、樹木希林らと六月劇場を結成。71年から實相寺昭雄監督の作品で連続して主演、映画『歌麿・夢と知りせば』では屈折した画家像を演じ好評を博す。
また怪奇映画「血を吸う」シリーズは代表作。『ファイヤーマン』など特撮ドラマにも出演。
主な作品に、ドラマ『氷点』『天下堂々』。NHKでは、大河ドラマ『源義経』『元禄太平記』『草燃える』ほかに出演。
★★★★★★★草野大悟★★★★★★★
(1939~1991)
岸田森らの六月劇場に参加し、テレビや映画へも進出し活躍。
特に岡本喜八や新藤兼人監督の映画作品の常連。髭を蓄えた味のある顔立ちと確かな演技力で、NHK大河ドラマ『源義経』『花神』『翔ぶが如く』、銀河ドラマ『霧の旗』、土曜ドラマ『劇画シリーズ 紅い花』などに出演。
51歳の早すぎる死だった。