『冬の総決算』とはいえ、予算がないので決算報告もできないというべきでしょうか。

   タダといえば図書館、その中で待ちわびた一冊『くもをさがす』と出会いは衝撃的でした。

   西加奈子さん自身で乳がんらしき「しこり」を見つけるところから始まりますが、まるで自分が突然暗闇に閉じ込められたかのような錯覚に陥ったことが不思議なくらいです。

   夢中で読みながら、西さんの動悸、視線、眠れぬ夜の静けさ、病室の花瓶、電気スタンドさえも想像できる卓越した描写に引き込まれました。

   驚いたことは、著者の膨大な読書量からしたためておいたであろう有名作家の深淵なる警告を治療の経過とともに書き込んでおられます。

   まさに、一筋の光明が差す寸鉄の数々が心の糧となったことでしょう。

   その中で、グッときたものを真珠の小箱を開くように載せてみました。

   つい最近のことですが、宮中「歌会始」で、61歳の方の短歌がこの本と重なり合うような気がしています。身に迫る「違和感」さえも我が身の一部として詠む先に、病気を乗り越えた厳しい道のりが推察されます。

   ところで、西さんは率直に「死は怖い」と書いておられますが、その4文字を口に出すことも、書くことも憚られる自分がいます。

   思い出すのは、父が食道がんで入院した時に医師がどうされるか尋ねるので、「はっきり言ってください。」とお願いしたことがあります。

   宣告を受けた父は身じろぎも動揺もせず、静かに進行具合を聞いていた姿が目に焼き付いています。

   それ以降、そのことに一切触れることなく、楽しみにしていた桜を愛でることもなく旅立っていきました。

   いまさらながらに、「良性のリンパ腫」ぐらいと言っておけばよかったかと思うことが度々あります。自分は、宣告されたら狂い、のたうち回るはずなのに・・・。

  おこがましいことですが、「その時」は動揺しない、泣き言は言わない、「ありがとう」だけは忘れない、そんなことを言い聞かせる今日この頃でもあります。

   その昔出会った言葉、「死は決して新しい知らせではない。いつでも白い靴下をはいて出かける準備をしておかなくてはならない。」(モンテーニュ) 

   それならば、勝手に「余命10年」と短めの区切り?を定め、心から美しいと思うものを探す旅に出たいと思います。

   

★★★★★★★一人読書会★★★★★★★

   

   本当にこれで終わりなのか?今後まだ、恐ろしいことが自分を待っているのではないか?どこかでそう考えている。

   そしてその思考は、最高潮に幸せな瞬間に浮かびやすい。この幸運が信じられない、だからこそ、それを失うのが怖い。

   この気持ちは何なのだろう、そう思っていた。でも、何のことはない。それはありきたりの感情だった。

   私たちは、100パーセントの気持ちで幸福を感じながら、同時に、100パーセントの気持ちでそれを失う事を恐れる生き物なのだ。「幸せ過ぎて、怖い」と、人類で初めて言った人は誰なのだろう。

   人はいつか死ぬ。皆が経験するはずのその死を、私はこれ以上ないほど怖がっている。

   死にたくない。少なくとも「妄信でいいか」と納得できる日なんて、私には来ない気がする。

   きっと死ぬ瞬間、最後の最後まで、それはもう、本当にみっともなく、怖がり続けるだろう。

   がんになって良かったことは、「それの何が悪いねん」、そう思えるようになったことだ。

   みっともなく震えている自分に、「分かるで、めっちゃ怖いよな!」、そういって手をつなぎ、肩を叩きたくなる。

(西加奈子『くもをさがす』)

 

★★★★『くもをさがす』より★★★

   それがどんなに長くても短くても、できる限り甘やかに、愛する人たちを愛し、まだやらなければならない仕事をできる限り片付けて、生きていきたい。

   耳から、目から、鼻から、あらゆるところから発火するまで、私は私の炎を書くつもりだ。

   私の呼吸が、すべて炎に包まれるまで。私は流星のように消えていくんだ!

(オードリー・ロード『A burst of light 』)

 

   しかし、生身の人間として闘病生活を送る私たちは、人生で最も勇敢な闘いにおいて、自分自身が最強の武器であることを知らなければならないのだ。

(オードリー・ロード『A burst of light 』)

 

   「完璧な体」というものはまやかしである。

   わたしは長い間、そんなものがあると信じ込んでいて、それが自分の人生を形作るのを許し、人生そのものを小さくしていた。本当の人生は、わたしに現実の体があることによって存在しているのだ。

   あなたがなすべきことを、架空の存在に言い含められてはならない。

(リンディ・ウェスト『わたしの体に呪いをかけるな』)

 

★★★★歌会始の儀★★★

見逃した 小さな小さな 違和感の 粒で自分が 作られていく(小野文香)