私が前立腺癌に罹患していることを知ったのが2022年9月、治療を受け始めたのが2022年12月である。幸いにして、現在(2026年5月)までは前立腺癌を制御できているようである。これまでの経験から感じたことを、この機会にまとめておく。
・最も大切なのは、最初の治療の選択である。
そのためには、前立腺癌のリスク評価が重要である。
一般に、前立腺癌は5年生存率が高く、予後の良い癌とされている。しかし、長期的には再発して命を落とす人も少なくなく、悪性度が高い場合は転移も速く、侮れない恐ろしい相手である。
リスク評価のためには、癌の広がりと悪性度を調べる。癌の広がりはPSAの値と画像、悪性度はグリーソンスコアで主に評価される。グリーソンスコアを正確に評価するためには、生検できちんと癌細胞を採取することと、その細胞の危険性をきちんと評価すること、この2つが重要である。生検をする泌尿器科医、標本を評価する病理医の腕前に左右されるのである。癌細胞の悪性度は人間が顕微鏡で目視して総合的に判断するので、一定のばらつきが出ることはやむを得ない。私の場合、生検はきちんとされ、まんべんなく組織が採取されていたため、再検となることはなかったが、グリーソンスコアは当初の3+4から4+4に変更された。
リスクを高く見積もりすぎると、経過観察で対応できた低リスクの前立腺癌を手術して、患者のQOLを低下させてしまう。リスクを低く見積もりすぎると、高リスクの癌には適応できないような治療法、例えばフォーカルセラピーなどを適応して、再発を招き、下手をすると患者の生命予後にまで影響してしまう。
私自身、最初の担当医からはリスクを低く見積もられ、フォーカルセラピーを勧められた。私は精神科医とはいっても一応医師なので(笑)、自分で調べることができ、PSA16の癌がそんな簡単な相手ではないことがわかり、フォーカルセラピーは選ばなかった。しかし、そうでない患者も多いだろう。
医療ジャーナリスト、長田昭二さんの例をみると、他人事とは思えない。
前立腺癌の場合には、幸いにも患者会である腺友倶楽部がある。Youtubeで前立腺癌について調べるうちに、腺友倶楽部の存在を知り、入会していろいろな情報を集めることができた。今の主治医の岡本圭生先生を知ったのも、Youtubeや腺友倶楽部を通してである。
・第二は、治療の副作用が思ったより辛かった。
前立腺摘出術でなく、放射線治療を選んだ理由の一つは、治療の副作用を考えてのことであった。仕事柄、尿漏れは困るし、性機能が全くなくなるのも嫌である。
そうはいっても、癌細胞を殺すためには十分な量の放射線を当てるのだから、当然、正常な細胞にも影響が及び、副作用が出るのである。ところが人間、副作用のない夢のような治療を願ってしまう。頻尿、尿意切迫感は覚悟していたが、治療終了後、1年も経ってから排尿時痛が出現し、さらに血尿まで出てきたのは辛かった。同じ治療を受けても、排尿時痛や血尿がでるのは少数派のようだが仕方がない。調べてみると、放射線性膀胱炎によるものらしい。治療はなかなか難しいようだ。漢方薬内服というのはまあ、そういうことだ。(笑) 当初は猪苓湯を内服、効果が感じられず、自分で調べて清心蓮子飲、次いで芎帰膠艾湯を内服、さらに、岡本先生からは五淋散が処方された。効果があったのかは不明だが、今年になって、ようやく排尿時痛や血尿はなくなった。排尿時のたびに症状があるのは想像以上に辛かった。
出血は、放射線で膀胱粘膜や血管が障害を受け、虚血状態となり脆弱な新生血管が発生し破綻するためという。高気圧酸素治療というのもあるようだが、大変そうだ。幸い今はおさまっているが、血尿は再発しやすいとの情報もあるので、当面は漢方薬の内服を続けようと思う。
・第三は、再発の不安である。
私の場合は、下の表からもわかるするように、PSAのバウンスがかなりあった。
高リスクの前立腺癌にホルモン療法をどれくらいの期間行うのか、これにはいろいろな方針がある。岡本先生はホルモン療法には副作用もあるため、できるだけ短い期間行う方針をとっていると思われる。一般的には、高リスク癌に対してのホルモン療法は、もっと長く行うようだが、この場合、癌の再発があっても、PSAはホルモン療法の影響で上がらないのでわからない。見かけでは非再発となるのである。
私の場合には、ホルモン療法は3カ月だけであり、外部照射が終わった時にはすでにテストステロンは基準値以上に回復していたため、ホルモン療法のPSAに対する影響は全くない。
放射線治療が終了してから2年ちょっとの間に、PSAは0.689から2.019の間で上下した。2024年11月に0.689となり一安心していたのだが、その後、1.959。ヒヤリとしたが、その後0.917、しかしまた、1.794、2.019である。岡本先生はバウンスだと事もなげにおっしゃっていたが、患者の立場では不安にもなる。今回の診察はかなり心配だったが、0.528と落ち着いた。今までの最低値なので、これでようやく一安心である。
以前、年上の友人が癌が再発した時には、癌があっても生活が闘病一色になるのではなく、普通に楽しんで生活するのが大切だとアドバイスをしたのだが、自分のことになると情けないものである。
| PSA ng/mL | テストステロン ng/mL | 備考 | |||
| 2022年9月 | 16.0 | 基準値1.31-8.71 | |||
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生検17か所 グリーソンスコア 3+4 最初の担当医から自費診療のフォーカルセラピーをすすめられる。 |
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| 2022年12月 | 19.55 |
岡本先生初診 グリーソンスコア 4+4 高リスクと評価され、ホルモン療法開始(ゾラデックス皮下注、ビカルタミド内服) |
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| 2023年3月 | 0.176 | ホルモン療法中止 | |||
| 2023年5月 | 0.052 | 0.25 | |||
| 2023年6月 | 0.122 | ||||
| 2023年8月 | 1.487 | 0.96 | |||
| 8月下旬小線源治療、10月下旬から11月外部照射 | |||||
| 2023年12月 | 0.970 | 12.5 | |||
| 2024年2月 | 0.806 | 頻尿、尿意切迫感 | |||
| 2024年5月 | 1.071 | ||||
| 2024年8月 | 0.997 | 9.0 | |||
| 2024年11月 | 0.689 | 9.5 | 猪苓湯内服 | ||
| 2025年2月 | 0.939 | 10.7 | 排尿時痛、尿意切迫感、頻尿悪化 | ||
| 2025年5月 | 1.959 | 10.9 |
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| 2025年8月 | 0.917 | 6.3 | 芎帰膠艾湯内服開始 | ||
| 2025年11月 | 1.794 | 8.2 | 排尿時痛、血尿まだあり。五淋散内服開始 | ||
| 2026年2月 | 2.019 | 11.7 | 血尿、排尿時痛消失 | ||
| 2026年5月 | 0.528 | 8.6 |





