売れないなぁと思いながらの5連勤を終えての2連休。
とりあえずインセンティブ対象になる目標台数を超えられたので、売った台数でインセンティブが発生するようになったのだけれど、現金ではなくAmazonギフトなので、大して嬉しくもない(笑)
とりあえず今日はシネマネコさん、12:30上映回を鑑賞しに行った。

いつもの人がいつものB-5を「大丈夫です、空いてます」と言って、スムーズに発券してくれる。

年内の鑑賞予定作品が夕方帯の上映スケジュールだと思っていたため、この人の勤務時間外になるからだ。

少し早いけれど「良いお年を」と挨拶し合った。

とはいえ、今年のシネマネコさんは正月休みが短いので、早々にお会いできそうではあるけれど(笑) 

愛にイナズマ
走る赤い電車など、街に溢れる“赤”を求めて一人、撮影をしている花子。
一方、花子の実家では父親の治が花子に電話をかけていたが、何ヶ月も花子は電話に出てくれないままだった。
治が友人の規夫に「ウィキペディアだと映画監督らしい」と花子の現在を伝え、規夫は感心しながらも花子が電話に出ないことを嘆いていた。

そんなある日、花子はビルの屋上から飛び降り自殺をしようとしている男の現場に遭遇した。黄色い規制線の張られた現場の周辺には野次馬が集まって、スマホを向けて撮影をしたりしていた。
女子高生たちは「初めて見た」と言ってスマホで動画を撮影を始め、早く飛びおりろと願っていた。その野次馬たちの中にいた老人は「早くしろよ!腹へっちまった」と飛び降りを煽るように叫び、その言葉に野次馬たちは笑う。
その異常さに、花子はカメラを野次馬に向ける。
しかし救助隊による説得で飛び降りをやめた男の姿から、残念そうに野次馬たちは去っていく。
その映像はカメラの不具合で記録されていなかったが、花子は衝撃を受けていた。
そんな花子の前を赤い自転車に乗った男が通り過ぎて行った。
赤い色に反応した花子はカメラを向けるが、カメラは起動しなかった。
その男は食肉流通センターで肉の解体作業という仕事をしている正夫だった。

花子は映画の打ち合わせで【消えた女】の脚本のチェックをプロデューサーと助監督と行っていた。
花子の脚本は面白いと言われるものの、業界歴の長い助監督からは“飛び降り自殺の現場で「早くしろ」と叫ぶ男”の存在を「ありえない」などと嘲笑われ、見解の相違が目立った。
花子の人物像や設定が突発的で意味がわからないものが多いと指摘する助監督。
「もう少し人間をよく見て」とプロデューサーにも言われ、モヤモヤするが仲直りを兼ねて飲みに行くことになり、コロナ禍でもあることから花子の部屋で飲むことになった。
その席上でも言い合いになる花子と助監督。
【消えた女】は花子の母だった。この作品は、花子の家族の物語だ。
しかし失踪の理由がないという花子に「どんなことにも理由がある。そうでないと観客は意味がわからないままだ」と言われる。
“ありえない”ことは突発的に起こるのだと力説する花子だが、助監督には嘲笑われるばかりだった。
そんな飲みの席もお開きとなり、プロデューサーをタクシーで帰した後、花子の部屋に戻ってきた助監督が二人で飲み直そうと言って家に上がり込もうとしたのを、花子は拒絶した。

そんな中でも花子は映画の準備を進めていた。
家賃は3ヶ月滞納し、部屋には督促状がいくつもあった。
管理会社からは退去勧告を受けていた。
それでも花子は街へ出ては撮影をしていた。
そんなある夜。
路地で揉めている学生と酔っ払い。路上飲酒が制限されていたコロナ禍。マスクもせずに路上で飲酒をしていた酔っ払いに「消えろ」と注意の勢いで絡んでいたのだ。
そこを通りがかり、放っておけなかった正夫は、割って入って抑えようとするが殴られてしまうのだった。
その様子を撮影していた花子。
正夫の赤い自転車を追っていたのだった。
しかしカメラの不調でまたしても記録できなかった花子。
トボトボと入ったバーは赤い電飾で、花子を落ち着かせた。
その店の片隅に、正夫がいた。
突然の偶然に驚いて思わず「なんで赤い自転車に乗っているんですか」と声をかけてしまう花子。
正夫はガーゼマスクを赤く染めながら、驚いていた。
「折村花子といいます」と花子が名乗ると、映画監督の?と正夫が聞いてきた。
正夫の家に転がり込んできた友人の落合が、花子の映画に出演が決まっているという。
「落合はすごいんです」と語る正夫の雰囲気になんとなく惹かれていく花子。
「“ありえないこと”って起きること思いますか?」と花子が質問すると「起こると思います」と答える正夫。
意気投合した二人はそのまま話していくが、正夫は俳優の夢を諦めて「いまは夢を探しています」と答えた。
「映画だったら嘘くさいセリフになるけど、あなたの瞳は嘘を言ってない」と空気の読めない正夫に惹かれていく花子は、マスクを外して正夫を見つめ、やがて正夫のマスクを外させてキスをしていた。
その様子は店内の監視カメラで撮られていた。

治はまた花子に電話をしていたが、相変わらず電話に出ない花子。
「メールにしたら?」と規夫が言うが「大事なことはちゃんと言葉で伝えたい」と言う治。
「まったく、父親が病気だっていうのに」と規夫は苛立ちさえ感じていた。

正夫の部屋にはガーゼマスクが何枚も干されていた。
その部屋には落合がいた。
酔いつぶれていた正夫が目覚めると寝言で何度も花子のことを話していたと落合に笑われた。
そしてそのバーに正夫がいると、再びやってきた花子と再会した。
そこで先日のことを“なかった”ことにしようとする花子に監視カメラの映像を見せてキスしたことを改めて話す正夫。
空気は読めないが真っ正直な正夫に憧れを抱きながら惹かれる花子だった。

そんなある日。病院のロケハン中に助監督たちに演技をさせ、カメラで撮る花子のやり方に抗議をする助監督。
そんな病院はロケ地を無償で提供する代わりに人間ドッグを受けて欲しいと言った。

季節が変わり、映画はクランクインしていたが、監督は花子ではなく花子と揉めていた助監督だった。
花子は病気のため降板したと役者にも説明されていた。
花子の降板とともに落合も降ろされていた。
そんな落合の落ち込んだ様子に胸騒ぎを感じながらも仕事に向かった正夫。
正夫が帰宅すると、落合はベランダで首を吊っていた。

落合の葬儀で遭遇したプロデューサーから、花子は人間ドッグで病気が見つかり降板したことになっていることを知った花子は猛然と抗議するが、あしらわれるばかり。
【消えた女】は自分の家族の物語であることを再度強調するが、取り付く島もなく、無力感を覚える花子は、暗がりの部屋で呆然と正夫と座っていた。
ふと気づくと正夫は通帳と印鑑を残して去っていた。
慌てて正夫を追った花子は正夫にカメラを向けながら、どうゆうつもりかを問いただしていく。
カメラを向けられたら本心が出るというのが花子の信条だった。
「家族の映画諦めるんですか?」
「そんなわけないでしょ!くそ意味不明に舐められるのは許せない!」
そして二人は“夢を諦めない”と決意するのだった。

治は突然の花子からの電話に驚いた。
実家に戻った花子は正夫をアシスタントにして、治を撮影していた。
たどたどしく母親のことを話す治だが、現実味のない嘘に腹を立てた花子は口汚く治を罵った。
その夜、治は正夫とバーで飲んでいた。
「どうしようもない父親でも、花子が俺を頼ってくれたと思っていいのかな?」
そんな治は、飲むと記憶がなくなるという正夫に「胃がんなんだ」と告白した。
そして治は長男の誠一に連絡した。

そうして10年ぶりに集まった折村一家。
治も誠一も次男の雄二も、花子も服には赤が使われていたことを不思議がる正夫。
意味もわからず撮影されることに苛立つ誠一は、治が傷害事件で逮捕されて荒れ狂って壊した襖や、小一で万引きして捕まった雄二がカトリック教会で聖職についていることなどをなじった。
そんないざこざがありながらも、撮影は続けられた。
母親の失踪の理由について、実は花子だけが知らなかったということが明かされていき、そのうえで誠一が治に「で、病気ってなんなんだよ!」と聞いたことで、花子はさらに疎外感を味わう。
治は本当のことが言えず「もう治った」と言って笑うだけだった。
そして夕食の席。その最中もカメラは回っていた。
「母さんに聞いてみるか?」と治が言ったことに驚く花子。
母親が出て行く際に携帯だけは持って行って欲しいと頼んだと言う治は、その料金も払い続けていた。
20年、連絡のこなかった電話。20年、連絡をしなかった電話。
治が発信すると、男性がその電話に出た。
「亡くなって3年になります」
それは母親が失踪した理由である男だった。
母親は亡くなり、海に散骨したという。
その海には、その男との思い出はないということで、きっと折村家での思い出の場所なんだろうと男は言った。
電話を切った後、花子はカメラを停止した。

海辺にやってきた花子たち。
雄二だけが覚えていたが、海辺の店に家族でよく来ていたという。
「みんな忘れちまうんだなぁ」と寂しそうにつぶやく治。
そんな治を抱きしめる正夫。

母親の携帯を解約するためにショップに寄ったが、本人以外は解約できないと言われてしまう。

夕食は規夫の店にやってきた。
治と子どもたちとの再会を喜び、大盤振る舞いしてくれる規夫は、自殺した自分の娘を弄んだ男を探し出して片目失明の怪我を負わせるほど殴ってくれた治に感謝していた。それで逮捕され、母親が愛想を尽かして出て行ってしまったのだという。
「うちの料理を食ってれば、一年でなんてことはねえからさ」
規夫のその言葉に不安を覚える花子。
「一年って、なに?」
そんな時に店に入ってきた男たちは、大声でSNSで受け子を募集して、老人などから金を騙し取る話をしていた。自分たちは逮捕されることはなく、月に1500万は稼げると笑っている彼らに憤る治を押さえつけて店を出る花子たち。
しかし「やっぱり許せない!」と正夫が店に戻ろうとする。
顔を隠せば大丈夫だと言って、正夫のガーゼマスクをみんなが付けて店に戻っていくが、誠一だけが行くことになった。
その様子を撮影していた花子だったが、誠一は殴られ、カメラは壊されてしまった。
その夜。実家で改めて乾杯する折村家と正夫。
雷が轟き、停電した室内。ロウソクを灯した治が居間を見ると、子どもたちがハグし合っていた。

一年後。
社長秘書の誠一は社長とともに芸能人を接待していたが、折村花子を知らないという彼らの反応に、それを当たり前だと嘲笑った社長に怒ってしまう。
雄二は教会で父治の姿を見ていた。
「あの晩、みんなでハグし合ってたよな。なんで俺はしなかったんだろうなぁ」
雄二は誠一や花子に連絡をして、海辺に集まってハグをすることにした。
そこには治もいるようにさえ感じる花子たち。
その様子を撮影していた正夫が思い出したように「もうハグしてますよ」と言って、動画を見せた。
それは一年前の嵐の夜。
酔っ払って「みんな揃ってるかぁ」と絡む治を誠一、雄二、花子が布団に連れて行くまでしっかりと抱きしめている動画だった。
フェリー乗り場で、映画の進捗を聞かれた花子。
「タイトル変えようかな。【消えた女】じゃなくて【消えない男】に。消えないよね?」
フェリーに乗り、治の遺骨を散骨する花子たち。

その花子にカメラを向ける正夫に、カメラを向ける花子。

“プロローグ”“酒”“愛”“家族”などいくつかのチャプタータイトルに分けられているものの、そこはあまり意識しないで観られる構成。
前半の花子が挫折していく物語に比べて、後半の家族の物語のテンポ感が心地いい。
“業界の常識”とやらを振りかざす古参の助監督が、花子の鬱屈した状況を焙りだしていく中で、軽いノリで責任は上になすりつけるプロデューサーも面白い存在だ。
そんな中で出会う正夫に対して、急接近すぎると思える展開も、そんな突発的なことが起こりうると信じている二人ならではと言えるだろう。
印象的なセリフの多い作品で、書き連ねたらキリがない。
中でも印象的なのは携帯ショップのシーンでの花子と誠一のやりとり。
“恐竜オタクのバカ”と誠一を罵って“私はウィキペディアに載っている”と言った花子に「いいか、恐竜は1億年前の存在でもちゃんと骨が残ってる。1億年後にウィキペディアはないからな」と言い返すセリフ。
時折カメラの不調で撮影データが消失する花子を描いていることからも、デジタルな存在よりも生身の存在の貴重さを象徴したようなセリフで印象的だった。
その他では、圧倒的に治が印象的だ。
停電した嵐の夜、ブレーカーを上げる前の静けさに「お前らいるか?」と問い掛けなおすあたりは、家族がそばにいることの幸福感を噛み締めるセリフだろう。
「消えないよね」とむせび泣くラストの花子のセリフに、涙は止まらくなってしまった。
花子が撮影した治のデータは消えてしまったものが多いけれど、花子の記憶からは消えない。消えて欲しくないと切実に願う愛情を感じられるセリフだ。
作品はまさに“コロナ禍”を描いていて、ほんの少し前のことなのに、とても昔のことのようにさえ感じた自分に驚いてしまう。
それまででは考えもしなかった“ありえない生活”を強いられた時期だ。
そんな中で職を失った人、夢を失った人も多くいたことだろう。
冒頭の飛び降り自殺のシーンなんかは、それを象徴している。
飛び降り自殺の現場で、野次馬が多くなれば、心無い言葉が飛ぶこともあるだろう。
僕が毎日通っている調布橋でも、時折、飛び降り自殺騒動は起きる。
規制線が張られて通行を遮断して説得に入る。何度かそんな現場に遭遇したが、立ち止まることはしない。刺激してしまうからだ。
都会ではそうはいかないだろう。
電車で人身事故が起きれば、その現場付近に人は寄ってくるし、スマホで撮影したりする。そんな光景も何度か見てきた。
だから“ありえない”とする助監督やプロデューサーの意見の方が、僕には受け容れがたい。

このところ、娘や息子の夢をよく見る。
こんな映画を観れば、きっと今夜もまた夢に見るだろう。
子どもたちをハグしたいと思うのは、ただの“存在確認”ではなく、愛情表現だ。
先日、娘の騙し討で8年ぶりに再会した家族
別れ際に息子とハグをした。
そんな僕は、ハグした記憶のなかった治よりは幸福なのかもしれない。
きっとあれが、人生で最後のハグだろうけれど(笑)

治を羨ましいと思うのは、病気で余命宣告されているところだ。

まぁ、1年なんて長い時間を言われたらもっと早くなんとかならないかと思ってしまうけれど。
とりあえず腹立たしいくらいに頑丈な身体で、たまに下血があるのと、両膝が痛くて歩くのが辛いくらいで、取り立てて悪いところのない僕は、これからも“生き地獄”を味わう罰を受け続けるのだろうなぁ。