シフト変更の調整で、2連勤でまた2連休。
怠け者の僕はこれくらいのペースで働くほうがいいけれど、この後は5連勤が続く(笑)
昨日は食事会があって、今日はシネマネコさん、10:00上映回を鑑賞しに行く。
いつもの人が花粉症で辛そうな中、癖で月曜日に僕を待っちゃいましたと言ってくれる。
やっぱりこの人は癒やしをくれる人だ。
『高野豆腐店の春』
暗い作業場に裸電球が点き、そこで辰雄が豆腐作りを始める。
豆腐屋の朝は早い。
そこへ作業着の娘・春が入ってきて挨拶をするが職人気質の辰雄は「おお」と応えるだけ。それが二人の日常だ。
丹念に作られる豆腐。
朝陽の中、二人は腰掛けて豆乳を飲む。
常連の客からも春の愛嬌は好評。
チーズ入りのがんもどきなど、春が考案したものもあるが、辰雄がチーズが嫌いだというだけで、人気の商品ももう作らない。
この豆腐店は尾道にある。
辰雄は散髪屋に集まる悪友たちと話をする程度が人付き合いだ。
心臓の具合を訊かれるなど、年齢のことも心配される辰雄だが、万が一ポックリ逝ってしまったらと、残される一人娘の春を心配する悪友たち。
一度は結婚した春だったが数年で離婚し、その後は辰雄と暮らしてきた。
春は人気があり、様々な人にアプローチされたが全て断っていた。
そんな春を再婚させたらどうかという悪友たちに腹を立てて一度は断った辰雄だったが、心臓の血管が詰まりかけているという診断を受けるなどした結果、悪友たちに候補を探すように依頼する。
なんとか辰雄が納得する再婚相手の候補を、辰雄が面接していくが、どんなに良い候補者でも巨人ファンだというだけで「帰れ!」と言ってしまうような状態だったが、一人、イタリア料理店を経営する村上だけは気に入る。
見合いという形ではなく、自然に二人を会わせようとして芝居をうつなどしていき、ようやく辰雄は春と村上を引き合わせ、食事会を開けるようになっていく。
駅ナカのスーパーに豆腐を納入して陳列していた辰雄に、担当が代わるということで挨拶にやってくる西田に「東京なんぞにうちの豆腐は持っていかん」と喧嘩腰。
「ちんちくりんが!」
西田に腹を立てながら入ったトイレで、ハンカチを置き忘れ、それをトイレ掃除をしていたふみえに渡される。
ふみえは、以前、病院でも辰雄の落とした手袋を拾ってくれていた。
不思議な縁を感じて話し込む二人は、お互いに惹かれていた。
ある夜。
「お父ちゃん、話があるんだけど」
と声をかけてきた春に動揺した辰雄だったが、数日後の朝、決心して話を聞くことにした。
「会って欲しい人がいるんだけど」
村上との結婚のことだと思っていた辰雄だったが、春が交際していたのは西田だったことがわかり、認めないと突っぱねてしまう。
それからは、春は口を聞かなくなり、その数日が辛かったために仕方なく辰雄は西田と会うことにする。
会食の席では終始不機嫌な辰雄は、西田が巨人ファンだと言ったことでさらに激高してしまった。
そんな辰雄に腹を立てた春は、家を出て行ってしまう。
ふみえにその話をすると「それはあんたが悪いわ」と諭される辰雄。
ふみえは、がんの再発で入院が決まっていた。
「戦争や原爆、私たちは不幸な出来事に遭ってきましたが、不幸せになってはいけんのです。振り返った時、幸せだったと言えるような人生を生きんと」
そんな辰雄の言葉に勇気づけられるふみえ。
春のいない高野豆腐店は、外国人旅行客が来てもうまく対応できない。
常連からも寂しがられていた。
そんな中でふみえを見舞った辰雄は、ふみえの唯一の親族である姪夫婦と遭遇。
その二人が院内のレストランで「家だけ残してさっさと死んでくれればいいのに」などと話しているのが聞こえたために、喧嘩になってしまう。
相手を投げ飛ばした辰雄は「ジジイをなめるな!」と見栄をきった。
警察署で辰雄の身元引受を待つ春と西田。
自宅まで辰雄を送った春は「打ちどころが悪かったら、死んでたんだからね!」と怪我をさせられた辰雄を叱り飛ばす。
そんな二人の様子から、帰ろうとする西田を呼び止めた辰雄は「春を、頼む」と西田との結婚を認めるのだった。
ふみえの見舞いにきていた辰雄は、ふみえに春のことを報告する。
「実は、春は、実の娘じゃないんです」
妻の連れ子だったという春。
妻の夫は親友だったが、幼い春を残して事故で亡くなったので、二人を引き取ったというのが経緯。その妻も40歳で原爆症が発症して亡くなった。
「あの子がこのことを、どう考えているのかを、時々考えるんですよ」
ふみえに恋心を抱いていると悪友たちにからかわれながらも、それを実感している辰雄は、豆腐作りでにがりを入れるのを忘れてしまうほどだった。
その慌ただしい中、ふみえから電話が入り、その日が手術の日だと聞かされる。
「お父ちゃん、そばにいてあげて」
春に言われても動こうとしない辰雄は「男なら行け!」とさらに怒鳴られて、病院へと駆け出す。
病棟から運ばれていくふみえの姿を見た辰雄はふみえに「ここで待ってるから」と声をかけた。
一年後。
商店街を歩く辰雄とふみえ。ふみえからスマホの使い方を教わったりしていたが、辰雄は相変わらず、春に聞けずにいることを笑ってごまかしていた。
そんなある日。
豆腐の仕込みをしていた辰雄に朝の挨拶をしてきた春に「今日は、お前が作ってみるか」と辰雄が言った。
いままで一度も、にがりを入れる工程は決してさせてもらえなかったもの。
それは豆腐作りにおいて最も重要な工程で、豆腐の質を決めてしまうものだ。
春が作った豆腐に「いい豆腐じゃ」と言う辰雄。
豆乳を飲みながら「でも、お父ちゃんの豆腐にはぜんぜんかなわへん」と話し出す春。
「お父ちゃんの作る豆腐は、お父ちゃんそのものの味」
そんな春を眺めながら「娘でいてくれて、ありがとう」と語る辰雄。
その言葉で、全てを悟った春は「私は、お父ちゃんの娘です」と涙ぐんでいた。
「ありがとう」
静かに辰雄が言うと、春は辰雄に抱きついていた。
頑固な父と、頑固な娘の、言葉の少ないやりとりに涙が滲んでくる。
娘を想う気持ちと、父を慕う娘の気持ちが、痛いほど全篇に流れている。
滲んでいた涙は、後半になればなるほど粒になって溢れてしまう。
静かに、心に響いてくる、映画らしい作品だった。
麻生久美子が本当に素晴らしい。
彼女はどの作品でも自然体で、大好きな女優さんだ。
最も印象的なシーンは、やはりラストシーン。
それ以外でいえば、村上との食事会後に商店街を辰雄と春が二人で歩くシーンだ。
辰雄と春は、グラスワインの飲み干し方まで同じになるほど似ているのに、実は血縁がないという展開が、物語の方向を大きく変えていく。
その変化さえ静かに行われ、優しい気持ちに包まれたまま、ラストシーンで号泣させてくれる。
来月以降に楽しみなことを作れた。
11月は初めてのクエ鍋を食べるという食事会、同じ子とこの冬にふぐも食べに行こうという予定が組めたので、少しだけ生きていける。
この子には今年何度も食事に付き合って貰っている。ありがたい存在だ。
もう恋もできない、孤独な余生では、食べることくらいしか楽しみがない。
娘から誘われて断った、来月の誕生日会。
娘から、二人ででも会おうとLINEがきたけれど、曖昧にはぐらかしている。
いつかのようにまたすっぽかされても哀しくなるだけだし、やっぱり、娘に会えるような父親ではない。
僕がひょっこり死んだ時にも、ちゃんと娘に連絡がいくようにドッグタグを身に着けているけれど、娘が電話番号を変えてしまったら、それも叶わない。
それはそれでいい。
何かあった時に連絡できるのは、何もなくても連絡できる相手だけだ。
娘とは、そうゆう関係ではない。
会いたい気持ちはいつだってあるけれど、会わないという罰を受けていくのが僕の立場だと思っている。
そうやって生きていくことがどうしても辛くなったら、死ぬしかない。