下手の考え休むに似たりなどと言い、考えたところで何の知恵も浮かばず、それでも常識事例論理といったものを駆使して、苦労の挙句やっと答えを出しても、単なる直感のほうが正しかったなんてことがよくあります。僕は決して勘がいいほうではありませんが、勘よりもさらに頭脳のほうが劣っているとみえて、これまでの人生結局は第一印象や直感のほうが正しかったということばかりです。だから近頃は「直感」を最優先しています。だいいちそのほうが楽。
ただどうなんでしょう、勘にも根拠ってもんがあるような気はしますから、預言者祈祷師霊媒師、その他諸々皆それぞれになにか拠りどころとか基準とかはある筈です。僕の場合はそこは微妙で、基準があるといえばあるし、ないといえばないんですけど、ジャンルによらずいいものホンモノには説明できませんが、ある種の共通点が必ずあります。
先日は六本木に大量のストラディバリウスが並んでいるというので、その名を冠したヴァイオリンなら拙宅にも一挺ありますから、どれどれと見に行って参りました。ただウチのは確かにストラディバリウスの名を冠してはいるものの、その前に「コピー・オブ」などと余分なことが書いてあります。どこかの古屋敷の解体現場で見つけたヤツを貰った
んですよ。時価六万円くらいのヤツ。
幸運なことに、松下さんとおっしゃる、本場クレモナでヴァイオリン制作をなさっている方が会場にいらっしゃって、いろいろと(根掘り葉掘り)貴重な話を伺うことができました。僕は不勉強で存じ上げなかったんですが、たまたま会場に居合わせたプロの演奏家が松下さんのヴァイオリンを使われていて、大絶賛していらっしゃいましたから、きっと現代の巨匠なんでしょう。その松下さん曰く、ヴァイオリンの姿かたちは黄金分割の塊で、現代人はしばらくそれに気付かなかったとか、ネックから先とその下のボディーまでの比率は7:5、即ち白鍵と黒鍵の数と同じである云々・・・あまりしつこく質問攻めにしたもんで、もてあましちゃったのか松下さん、とりあえず展示を見ておいでなさい、また後で話しましょうよと、体よく追っ払われて、それもそうねと展示室に。
まあ豪勢なもんで、その数21挺。すべてアクリルだかガラスだかのショーケースに一挺一挺飾られてます。全部がアントニオ・ストラディバリ公房作のヴァイオリンですから、当たり前ですけどみ~んなおんなじヴァイオリンの形をしています。ギターならギブソンでもフェンダーでもいろんな形してるんですけどねぇ。とはいえ、よくよく見ればそれぞれがビミョ~に違います。どう違うのかと質されても答えられませんけど、オーラが違うんです。はは~ん・・・こりゃきっと同じストラディバリウスとはいえ、その中にもアタリハズレがあるんだろう、当たり前といやあたりまえだけど面白いもんだなぁ・・・
で、ひと通り見せてもらってからお供のサイモンに、
「どうしてもこの中で好きなやつを一挺貰ってくださいと言われたら、僕はこれか、あそこにあるヤツのどっちかにする。絶対いい音すると思うよ。弾かなくてもわかる・・・そもそも弾けねぇし。」
彼女は笑いながらへーなんて言ってましたけど、他でもない、こういうことに関してだけは僕は(たぶん)信用がありますから、あとは大御所に答え合わせをしてもらって、威信を守るだけ・・・こんなことぐらいしかないもんでね。情けないけどね。しかもこれ間違っちゃったら権威は失墜、己の女房の執事にされちゃいそうだし・・・既に半分なってるけど。(続きます)