ところが女房のサイモンのヤローときたらとにかく好奇心の塊で、ある日麹だの豆だのを用意して、何を始めるのかと思ったら、あろうことか我が家で味噌の仕込みなんか始めやがりました。うれしそうにコージちゃ～ん♪なんて話しかけちゃってます。これで３ヶ月も経てばたべられる～とのことでしたから、その間になんとかしてしまわないと、エライことになるんじゃないかと思いましたが、捨てちゃったらすぐに味噌嫌いの僕の仕業ってわかっちゃいますから、もっとエライことになりますし、いっそ冷蔵庫の塩辛やなめ茸（これもウチじゃ手作りですけど）の如く忘れてもらえはしまいかと一所懸命祈ってみました。だってプロが作ったものですら口に合うものがないんですから、ド素人が思いつきで作った味噌なんか食えるわけがありませんよ。でも相手は支配者ですから、楽しみだねぇと言うより他の選択肢はありません。あぶら汗を流しながら、僕は来るべくＸデイに恐怖していました。
まあこういう時の３カ月なんてのはアッという間で、無常にも運命の日はすぐにやってまいりました。神も仏もあったもんじゃありませんが、茶色い汁が湯気を立ててます。おお、やったねーなんて心にもないことを棒読みしながら、ありったけの勇気を振り絞ってひと口。ん？・・・なんだ？・・・いや、そんなはずぁねーだろう・・・で、もうひと口。あれ？やっぱりそうなの？
なんとなんと、旨いんですよ、これが。味噌汁飲んで生まれて初めて旨いと思ったの。きっとダシと具が良かったにちげえねぇ・・・初日はそう結論付けたものの、たぶん気のせいなんでしょうけど、日に日に旨さが増してくる感じです。
こりゃ味噌のくせに、単なる旨いぞ・・・と思った刹那、僕の頭の中に四字熟語が浮かんで思わず呻りました。う～～～ん・・・これがうわさの手前味噌ってヤツなのね？古人の洞察力とはなんと鋭いのだろう。餅は餅屋なんて言っときながら、味噌なら自家製が最高だってことだろう。う～～～～～～ん・・・韓国じゃ手前キムチなんて言うんだろうか・・・なんて、しばらく経った今でもまだ呻ってます。絶対自分ちで味噌作ってみたほうがいいですよ。ホントですから。
手前味噌のメカニズムはいまいちよくわかりませんが、察するところその家の空気に左右されるのではないか。だとすれば麹は生き物ですから家畜といっしょで、良好な環境を作ってやらなくてはいけません。昔から僕の持論なんですが、動物は可愛いほうが絶対に美味。おそらくストレスがないからかわいい顔してるんでしょう。フィリピンの田舎なんかに行くと、家畜はほとんど放し飼いみたいで、ときたまかわいい顔した牛が道路にのこのこ出てきたりするんですけど、あいつらやっぱり美味ですよ。イベリコ豚だって山で放し飼いにされて呑気にドングリなんか食ってますし、おそらく彼らはそのうち自分が食われちゃうなんて、考えたこともないでしょう。逆に狭いところでギュウギュウ詰めにされてりゃ、そりゃいくら牛や豚だって自分がドナドナ運命だってことぐらいわかりますから、そのストレスはそうとうなもんでしょう。乳牛ならモーツァルトでも聴かせてもらえるみたいですけど、肉牛じゃそんな話も聴いたことがありません。あ・・・そう言えば、三重のほうじゃビール飲ませて肉を軟らかくするって話ですけど、ストレスが解消されるのかもしれませんね。オッサンといっしょじゃん。ついでにカラオケもやらせてみたらいいよ。その昔水戸街道でトラックが横転して豚が江戸川の土手まで逃げ出して、もの凄い渋滞になった騒ぎがあったんですけど、ありゃ積まれてた豚がみんなで力を併せて、せーのでトラックをひっくり返したんじゃないかと僕は怪しんでます。結局みんな捕まっちゃいましたけど、でも少しは走り回ったことでストレスも発散できたでしょうから、いつものヤツらよりは旨かったんじゃない？
そう考えると我が家のコージくんも旨かったからには、きっとサイモンのヤローにすっかり騙されちゃったんでしょう。んで、もっと考えりゃ麹が騙せるくらいなんだから、僕なんかもっと簡単でしょうよ。う～・・・
