「パチャ」は、ケチュア語の言葉で、「時間」と「空間」を同時に表すものです。この「パチャ」を冠する語がアンデス世界にはみられます。

この言葉が理想としていた世界観は、どのようなものだったのでしょうか? 

 ペルー共和国の首都リマには、パチャカマックという大きな遺跡があります。この遺跡は、16世紀半ば以前から、信仰の中心地でした。

パチャカマックは、ペルーの海岸地域に伝わる神さまの名前です。

カマックは、ケチュア語で「創造する、育てる存在」、「魂」といった意味があります。つまり、「パチャカマック」は「空間と時間を創造する、あるいは育てる存在」という意味になります。

さらに、このパチャカマックは地震の神としても知られています。新しい空間と人をつくるために、世界を破壊する神話がのこっているのです。

 そのほかにもアンデス地帯には、パチャママという習慣があります。これは、大地に対して供物を捧げる行為や、地母神そのものをさす言葉です。 

 今の私たちは、「時間」と「空間」という二つの単語と概念を持って区別する生活です。しかし、このパチャという単語は、その二つを切り離してはいません。一体のものとして理解するための言葉と考え方なのです。

 しかし、この言葉が本来持っていた世界観というものは、今ではなかなか実感しにくいのかもしれません。

 17世紀に、ワマン・ポマという先住民がいました。

スペイン征服以前のインカの歴史と文化を伝えた人です。彼は、植民地支配の実態とその改善を訴えるために、当時のスペイン国王フェリペ3世に宛てた書簡『新しい記録と良き統治』を書き、スペイン国王に献呈したといわれています。 

もちろん、本当に国王が書簡を手にして、メッセージを受け取ったかどうかはわかりません。しかし、今、500点を超える挿絵が文章とともに掲載され、貴重な財産となって、実に多くの人が読むものとなっています。 

この書簡に、インカ王が、「ワカ(聖地、神殿、聖なる存在そのものを意味する)」、動物や自然物と対話する絵がみられます。定住生活をしながら農耕などの生業を守っていく上で、生態系の細やかな変化一つ一つを、どれも切り離さず、「まるごと一つのもの」として観察し続けていくことが必要だったのです。

 古代アンデスの人たちがのこした土器には鳥、魚、鮫、蛇、トウモロコシ、ジャガイモなどが描かれることも多いです。土器だけでなく、人々が身にまとう衣服にも、自然や生物が表現されました。

人は、いろいろな神様、動植物の多様性や変化と一体のもの。だから、「時間」と「空間」を共有し、つながっていたのだと感じられます。「時間」と「空間」、そしてその中で生きる生き物は、別々にあるものではなかったのでしょう。生き物のリズムにあわせて人々は、暮らしていたのです。「パチャ」は、生きとし生けるものとそのつながりを、「まるごと一体のもの」として表現していたように思われます。