先日のSUMCOについての記事で、

seikosha77777さんから

日本の産業と韓国の産業の競争力

についてコメントをいただきました。

 

今日は、米中貿易戦争と日韓貿易戦争について、

私が良く知っている半導体産業に関わる部分について

考察してみたいと思います。

 

※素人の憶測を含む記事であることをご了承の上ご覧ください。

 

■貿易戦争の本質

経済的、産業的に既得権

を持った国が、
自国の権益を守るために、

挑戦者として台頭してきた国

を叩き潰す。

それに政治家の思惑、そして人気取りが絡み、

マスコミもからんで政治ショー化する。

こういう構図。

 

米中貿易戦争では、

米国が安全保障を口実にファーウェイを叩いている。

 

日韓貿易戦争では、

日本が安全保障を口実にSamsungSk hynicsを叩いている。

 

構図は同じように見える。

しかし、戦略の深さが全然違うように

私は思う。

企業を叩くという行為は、

あくまで表面的に見えていることだけ。

その奥底には国家の重要な戦略がある。

 

米国の狙いは自国の産業や企業

究極的には世界の枢軸国としての、

自国の権益を守ること。

明確な戦略を持ってやっているはず。

 

それに対して日本の狙いはなんだろう?

正直私にはよくわからない。

 

このふたつの貿易戦争の結果として何が起こっているのか?

まだ現在進行中だが、

いま時点での結果を整理して、

客観的な事実をもとに、

その影響について考えたいと思う。

 

※私が良く知っている、半導体産業に関わる部分の考察です。

 

■米中貿易戦争の顛末

・戦争の背景

中国が世界のGDPで2位になった。

そして、盤石な支持基盤を持った習近平が牙を剥く。

世界の枢軸国であるアメリカに対して、

中国がナンバーワンになる!

という、これまでひた隠しにしてきた欲望が

顕になってきた。

 

これまで、中国は途上国の地位を逆手に取って、

あらゆる自国の産業を保護し、育成してきた。

その結果、テンセントやアリババそしてファーウェイなど、

世界トップクラスの企業が成長した。

 

中国はもはや米国に引けを取らない技術大国

保護なんて必要ない。

 

ファーウェイは、5Gで世界のトップを走っている。

 

5Gまわりのビジネスは

今後の世界の趨勢に大きな影響がある。

 

米国は恐れた。

中国に枢軸国の地位を明け渡すまい

貿易戦争を仕掛けた。

その一環として、ファーウェイを潰しにかかった。

 

・米国のやり口

ファーウェイの生命線のひとつ。

それは半導体。

HiSiliconという子会社がつくっている。

HiSiloconはファブレス企業。

 

製造は台湾のファウンドリ(半導体の製造を請け負う会社)

であるtsmcに委託しており、

tsmcがHiSiliconの半導体を作っている。

 

米国の半導体産業は強い!

とくに製造装置は、アプライドマテリアル、ラムリサーチ、KLAなど、

特定のプロセスでシェアを独占する企業がたくさんある。

要は、米国製の製造装置が無ければ半導体はつくれない。

米国はこれを戦争の武器にした。

 

ファーウェイに対して、

安全保障上の問題がある会社

というレッテルをはった。

そして、米国の技術を利用して製造した半導体を

ファーウェイに売ってはならない

というルールをつくってしまった。

 

tsmcにとっては大きな危機。

なぜならファーウェイは

tsmcの売上の20%弱をしめる大口顧客だから。

 

今年の春くらいに

tsmcが日本に工場をつくる!

というニュースが新聞に出たことがあった。

これの狙いはおそらく、

日本の半導体製造装置メーカーとのコラボレーション。

 

日本の半導体製造装置産業は、

米国と並んで世界トップの技術を持っている。

 

米国製の装置を代替できるのは日本しかない。

だから日本を巻き込もうとしたのではないか。

 

しかし、tsmcの日本の工場の話は頓挫した。

何故だろうか?

 

この話がでなくなるのとほぼ時を同じくして、

tsmcが、

米国に工場をつくる!

というニュースと、

ファーウェイとの取引をやめる!

というニュースが世間を騒がせた。

何故tsmcがこういう判断をしたのか??

 

誰もが米国の圧力に屈したと思ったと思う。

だが私は、

tsmcがファーウェイとの取引をやめる

というニュースを見た時に、

なにか違和感を感じていた。

 

日本とやろうとしていた戦略を、

何故突然あきらめたのだろう?と。

 

2020年7月23日のintelの決算発表で発表された、

2つの衝撃的なニュースが世間を賑わせた。

 

ひとつめ。

intelの7nmプロセスが遅れている

という発表。

これは業界では誰もが知っている話だった。

 

ひと世代前の、10nmプロセスでは、

製造コストが高く、性能も悪い。

 

tsmcで製品をつくっている

Intelの競争相手であるAMDに

Intelはどんどん差を詰められていた。

 

ふたつめ。

こちらの方が業界では驚愕のニュース。

Intelが最先端プロセスを外部に委託製造する可能性を示唆した。

委託する相手はもちろんtsmcしかいない。

 

tsmcにとってはHiSiliconを失っても余りある、

大きなビジネスチャンス!

 

私は腹落ちした。

tsmcがファーウェイとの取引をやめる決断をしたときには、

すでにこの話がまとまっていたのだと思った。

 

・結果何が起こったのか?

▪︎米国にとっての好影響

米国のもっとも重要な目的

ファーウェイの5Gビジネスを遅らせる。

これはどうやら達成できそうだ。

ファーウェイが手間取っている間に

他の企業がキャッチアップできる時間を確保した。

 

その引き換えとして、いくつか苛烈な手段を取ったのだが、

tsmcの工場をアリゾナに誘致でき、

intelとtsmcのコラボレーションが実現する

など、結果的に大きなメリットを得ている。

素晴らしい交渉成果。

 

▪︎米国にとっての悪影響

戦争をしたのだから、メリットだけでは済まない。

デメリットを被ったのは

アメリカの半導体製造装置メーカー。

アプライドやラムリサーチは、

中国はもちろん、他国のビジネスで不利になる。

何故なら、tsmcやSamsungなどの半導体メーカーが

米国の装置で作った半導体を中国に売る

場合にリスクになるからだ。

 

漁夫の利を得るのは日本企業のはずだった。

しかし、米国は枢軸国の地位をフル活用して

日本にも圧力をかけている。

日米の力関係から、日本は折れざるを得ないだろう。

 

半導体製造で最も影響力の大きい、

台湾韓国のビジネスでは、

米国企業は結果的に不利になっていない

 

むしろ韓国では日韓貿易戦争の影響で

日本が不利益を被っている。

世界的な半導体製造大手である、SamsungとSK hynicsは、

日本の製造装置を買う場合には

必ず他国の競合メーカを評価する

方針を取り始めた。

本来なら漁夫の利を得られるタイミングで、

なんてことをしてくれたのだろうか??

 

長期的には中国の製造装置メーカーが育っていくだろう。

中国はすでに、最も難しいとされる、露光機をある程度作れるらしい。

今はオランダのASMLがシェアを独占している。

中国製の露光期が中国のファウンダリ大手であるSMICですでに稼働しているという噂がある。

ただ、この流れはもともと止められなかった。

中国は、習近平が打ち出した中国製造2025戦略で、

半導体製造装置の内製化を目標にあげていたからだ。

 

この貿易戦争で米国が被った不利益は

限りなく小さいと言って良いだろう。

 

▪︎貿易戦争の趨勢

この貿易戦争で、

米国はたくさんのメリットを享受し、

デメリットは最小に押さえ込んだ。

 

世界の枢軸国である既得権をフル活用した

練りに練った戦略を駆使して。

 

■日韓貿易戦争の顛末

・戦争の背景

日韓関係は歴史的に定期的に悪化する。

それは韓国という国の建国の歴史から避けられない。

韓国は抗日を旗印として建国された国だから。

 

徴用工訴訟問題もそう。

日本が賠償金を払って解決しても、

政局の変化で定期的に問題が再燃する。

これは避けられない。

 

しかし、日本側にもメンツがある。

解決した問題を何度も掘り返されて、

黙って従うわけにはいかない。

 

今回の貿易戦争では日本はがっつりやり返した。

韓国のGDPの大きな割合を占める

大財閥の主要企業である

SamsungとSK hynicsのビジネスを頓挫させれば

韓国にひと泡ふかせられると考えたのだろうか。

 

 

・日本のやり口

日本企業が圧倒的なシェアを握っている

半導体製造に必要な材料はいくつもある。

 

今回は、フッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドの輸出を制限した。

韓国は相当困ったはず。

しかし、日本側も相当困ったことになった。

 

米中貿易戦争では、

米国は、枢軸国である自国の地位を守り、

自国の産業を守るという大戦略のもとに、

自国のメリットを最大化させる戦術を徹底した。

 

一方、日本はどうだろうか?

大戦略大目標は一体なんだったのだろうか?

韓国を困らせて、

政治的メンツを保つためではないことを祈りたい。

だが、私にはどういう目的があってやったことなのか、

いまだにわからない。

 

・結果何が起こったのか?

▪︎日本にとっての好影響

この貿易戦争で勝ち取ったものは何か?

産業という面では何もないのではないか?

 

政治ショーという意味では、

韓国を折れさせて

支持率がちょっとは上がった

だろうか?

 

▪︎日本にとっての悪影響

弛まぬ企業努力の積み重ねにより、

世界的に強靭な競争力を持っていた、

半導体材料メーカは散々だっただろう。

 

今でもトップシェアは維持出来ている。

しかし、例えばシリコンウェハを例に取ると、

シェア1、2位の信越半導体、SUMCOを牽制するために、

グローバルウェハの工場を韓国に誘致したり、

SK Siltronを支援したりと、

長期的に日本に頼らない

体制の準備を進める後押しをしてしまった。

 

同様に世界的に強い競争力がある

半導体製造装置メーカー

不利益を被っている。

韓国で芽吹きつつあったが、

技術力の差でシェアを上げられなかった

半導体製造装置メーカが、

今後、国やSamsungの支援

立ち上がってくることだろう。

 

▪︎貿易戦争の趨勢

この戦争で日本が勝ち取ったものはなんだったのか?
失った、あるいは、長期的に失うリスクを高めた産業は多くあるように思う。
政治パフォーマンスで終わることのないと期待したい。
 

▪︎むすび

日韓貿易戦争の目的、
そして、それを達成する大戦略は
なんだったのだろうか?
 
私にはいまだにわからない。
いろいろと厳しい論調で記事を書いたが、
貿易戦争が終わった時に、
そういうことだったのか!!
と腹落ちできる戦略があることを期待している。
 
自国の指導者に期待して
顛末を見守っていきたいと思います。

さて、この戦争は株価にどう影響していくてしょうか?
色々調べて資産運用の方針に反映するのも楽しいことですね。
 
 
※本記事の内容は、一個人としての私の私見です。
 

 

今日も読んでくださってありがとうございます!

 

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