1秋葉原


入り口の階段を登っている途中で、中が見えるようになっている。中を見ると、呆けた顔をして、口をあけている男と、その男の口にパフェを運んでいる、短い黒っぽいスカートと足と、銀のスプーンが目に入った。

メイドの格好した女よりも、あの男のことが気になった。
女の子が2人で来店している。客層はばらばらで、ジイさんもいれば、スーツ姿の男もいる。

先ほどのパフェを食ってた男は、環境問題がなんちゃらという分厚い本を読んでいる。メガネをかけたその男は、笑ってるんだか泣いてるんだかわからない顔で、コップにお冷を注いでいる店の女にぺこぺこと頭を下げている。


なんか、わかるな。どうしていいのかわかんないんだろうな。自分を見てるみたい。
あの人は、環境問題がどうとかという本を本当に読みたいのかな?

それとも、格好つけたいのかな。
空席一つ空けたほうでも、男が分厚い本を読んでいる。

そういう類のずれ方に親近感を持った。

その人のことを観察していたら、「もっと話さなきゃ」と一緒に来た人に言われる。
その人のおごりだから申し訳ないと、訳のわからない遠慮の仕方をして、飲み物を頼まなかった。
お冷で、ポテトを食べる。なんだか泣きそうになる。

何は話せばいいんだろう。恥ずかしくて、緊張して、どもる。
何も話せない。

あのメイドの服着たかわいい女の子は、岡崎京子好きかな?
そんなことを思いつき、話しかけようとして、笑ってしまう。


環境問題の本を読んでる男の人と、僕は似てる。

何を話せば、怒られないのか。
何を話せば、顔を曇らせずにすむのか検討もつかない。

なにも話せないまま、そろそろ次の店に行くことになった。