妄想⚠





俺は母ちゃんに和の母ちゃんのことを詳しく聞いてた。

まだこっちに俺がいる頃から和の母ちゃんの言動が変だったのは覚えてる。

だから和に会わないようにしてたんだ。

仕事先を俺のことを誰も知らない北の大地にしたのも和から離れるため。

それなのに、和の母ちゃんの病気は悪化して入院するようになったんだ。



俺は看護師として中学生の自分を演じながら母さんの様子を見ていた。

和母「母さんねえ、和也のこともお父さんのことも心配なの。あの人は、家の中のことがいっさいできないから」

和「大丈夫だよ。母さんは心配しなくても。それよりも自分のことを考えてよ」

和母「和也がそんなことを言うなんて思わなかったわ。しばらく見ないうちに和也は成長してたのね」

和「俺だっていつまでも子どもじゃないし」

とりとめのない話をして病室を出たら先生の話があると看護師に言われた。

迷ったけど智と智のお母さんに一緒に聞いてもらうことにした。

先生「はじめまして。二宮さんの担当医をしています森田といいます」

和「はじめまして。息子の和也です」

先生「そちらは?」

智母「はじめまして。二宮さんのお隣に住んでいます大野といいます」

智「息子の智です」

先生「すみませんが身内の方以外は遠慮してもらいたいんですが」

和「この2人は身内です。俺が産まれたときから知ってますし俺は大野さんのお母さんに育てられたんですから」

先生「といいますと?」

俺が産まれる前から二宮家と大野家は仲が良かったこと。

俺が保育園に入ると同時に母親が職場に復帰して、俺は母親の仕事が終わるまで大野家で面倒を見てもらったこと。

俺が産まれたときからずっと智が遊んでくれてたこと。

俺が中学2年になってから母親の言動がおかしくなったこと。

そのことで智が俺と会わなくなったことと、母親が智と俺が恋人だと思いこんでたことで俺と母親がケンカしてたことを話した。



先生「そうでしたか。二宮さんの思い込みは理由があるんですよ」

和「理由?」

母さんが俺を産んでから夫婦の営みが無かったことで母さんは父さんに疑念をもった。

妻である自分を抱かない夫には他に誰かそういう相手がいるんじゃないか。

でも、結婚して子どもまで産んだ自分に落ち度があるとは思えない。

もしかして相手というのは男なんじゃないかとまで思うようになった。

世の中には2人も3人もそれ以上の子どもがいる家庭もある。

それなのに夫は妻である自分とそういうことをしようとしない。

このとき母さんは父さんの相手が男だと決めつけてしまった。

そして、自分の息子と仲が良い智にも疑いの目を向けるようになった。

俺を保育園と大野家に預けたのも仕事をすることで現実から目をそらすためだった。

だけど、中学生になっても智としか遊ばない俺までが夫と同じ…男とそういう関係になるのが耐えられなかった。

最近の子どもは小学生から付き合うこともあると聞いた母さんは中学生になっても智しか目に入ってない俺を見て確信した。

自分の息子はお隣の息子とそういう仲だと。

だから、母さんは俺に智と遊ぶなって言い始めて俺とケンカするようになったんだ。

母親から智と遊ぶなって言われたことに俺が反発したことで、母さんの中では夫も息子も男に奪われたと決定づけられた。

女としても妻としても母としてもプライドを傷つけられた母さんは、病気になった。

和「…それで、父に話は聞いたんですか?」

先生「もちろんだよ。二宮さんの旦那さんは身に覚えがないと言っていた」

どういうことだろう?母さんの思考がぶっとんでるのはわかったけど、父さんに身に覚えがないのは変じゃない?



俺ん家に帰ってきて母ちゃんが作ってくれた夕飯を和と3人で食べた。

きっと、和も俺と同じことを考えてる。和の母ちゃんと父ちゃんの話のズレのこと。

和「父さんが帰ってきたら聞いてみる」

智「俺も一緒に聞く」

役に立てるかわかんないけど、和の傍にいてやりたい。いや、俺が傍にいたいんだ。