妄想⚠
その日、外科医の俺は日勤だったが救急に駆り出されてオペをしてた。
暴走車に突っ込まれて運ばれてきた患者の殆どが重傷を負っていた。
幸い命に別状はなかった。
「松本、お疲れ様!」
「あぁ…二宮もいたんだ」
「悪いな?でも、助かったよ」
「いや、お疲れ様」
どうやら二宮は当直だったみたいだ。
暗い気分で着替え病院を後にした。
今日みたいなことがあると免許証に年齢制限を設けるべきだと思う。
仕事に定年が定められているように。
お年寄りばかりが運転を誤るわけじゃないけど、オートマ車は危険だ。
マニュアルなら面倒な分だけ事故は減ると思うけどな。
俺も免許あるし更新もしてる。
車も持ってて以前は車通勤してた。
でも今は乗る気になれない。
電車に乗り最寄り駅で降りて家に向かってると…人が倒れてる!
「大丈夫ですか?」
駆け寄ると呼吸と瞳孔を確認と脈を診て異常が無いとわかった。
だけど、道端で寝るような風に見えないしとポケットを探ってたら、
「…変態」
「失礼な!俺は医師だ!」
「俺に触るな…」
「え?…おい!」
未成年ではないだろう。
家に連れて帰ることにした。
暗がりではわからなかったが裸足にスエット姿で顔には殴られた跡が…。
お湯をためてから脱がせて風呂に入れることにした。
躰も痣だらけで…どこかから逃げてきたんだろうか。
髪と躰を洗い流して…困った。
お湯に入れたら溺れるんじゃ…。
考えた末にバスタブの縁に両腕を出して寄りかからせた。
一応、様子を見ながら自分を洗ってたら気が付いたらしい。
「お前!誰だよ!」
「だから、医師だってば」
「勝手に裸にしやがって!」
「洗ってあげたんだよ?上がったら手当てしてあげるから」
「俺に触るな!」
真っ赤な顔は怒ってるのか興奮しているのか…のぼせたとか?
バスタブに浸かるのを諦めて先に風呂を出て手早く拭いてパジャマを着た。
「ほら、熱いんだろ?見ないから上がりなさい」
「………あっち行け」
「はいはい」
彼から見えない場所で様子を窺ってるとふらふらとパジャマを着て出てきた。
ペットボトルの水をテーブルに置いた。
彼は俺と一定の距離を保って、不用意に近づけば部屋の隅に逃げた。
「喉渇いてるよね?何で飲まないの?」
「………」
無言で睨みつけてくる…猫みたい。
絶対懐かないし油断したら爪で引っ掻かれたり囓られる。
思いついて半分くらい口をつけて見せつけるように飲んだ。
離れていても喉が鳴ってる。
そのまま残ったペットボトルを置いて、壁まで下がった。
まだ迷っていたけど素早い動きでペットボトルを持ち去り部屋の隅に逃げた。
でも、凄い勢いで水を飲み干した。
「ね?普通の水でしょ?」
もう1本ペットボトルを出して2口飲んでテーブルに置いて離れた。
また素早い動きでペットボトルを持ち去り部屋の隅で飲み干した。
う~ん?野生動物みたいな警戒心だ。
あ、名前も聞いてなかったな。