クロイツェル・ソナタ/悪魔、イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ/レフ・トルストイ | なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

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新潮文庫光文社古典新訳文庫版の「クロイツェル・ソナタ」を読み比べしてみようと思いましたが、冒頭の部分を比較しただけで文章の構成が異なっているのが一目瞭然だったので、新潮文庫版を読んで新訳版の方は読むのを諦めました。最初の数ページを読んだだけですが、新訳版は洗練された印象で確かに読みやすそうですけど、昭和49年発行の新潮文庫版では文章に少しくどさがあるものの、主人公の独白が醸し出す緊張感が最後まで持続していて力の抜けない作品でした。

 

 「クロイツェル・ソナタ」「悪魔」は、著者自身の性に対する考え方を強く反映した作品で、「クロイツェル・ソナタ」は、ある男が長旅の列車の中で一人の男と乗り合わせ、その男から自分の理想の女性を妻にした妻の妊娠と出産をきっかけにして妻の態度が変わったことから次第に憎しみが募るようになり、お互いに反発を繰り返していくうちに客人の男との不倫を疑って妻を殺害するに至った経緯を独白する物語で、作品のほとんどを男の独白が占めている異色な作品です。「悪魔」は、亡父の遺産である村を相続した男が、父親が残した借金の清算に追われる日々を送る中で人妻と関係を結んで性欲のはけ口とする。やがて村の経営が軌道に乗り始め、理想の女性を妻にして幸せな日々を送る男だったが、妻が出産を控えたある日、その人妻と再会したことで一方的な過去の欲情に駆られ、自分を見失い自死してしまうという物語で、どちらも性欲や愛に対して極端で厳格なまでの主張に固執するあまり、悲惨な結末を迎えます。

 

「イワン・イリイチの死」は、病を得て出世競走から離脱した一人の官吏の訃報がもたらされたことで、その男が送ってきた仕事一筋の人生と病に打ちひしがれながら死を迎える一瞬までを描いた物語ですが、死にゆく者の生きることへの執着と達観の中に著者の死生観が垣間見えます。

 

性と死という人間の二大テーマを追求した作品として興味深く読みましたが、自分の中に誰からも理解されることのない疎外感を抱え込みながら、狂気に近い極端な愛情によって自らを縛りつけ、その結果として死を選択せざるを得なくなった、あるいは逃れられない死を迎え入れざるを得なかった悲劇の物語として、現代社会における人間関係との共通点を感じさせてくれる作品でした。