全部抱きしめて/碧野圭 | なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

なおぱんだです。
北の国から、読んだ本、買った本、大好きな曲、そして日々思うことなどをポツリポツリと書いてます。

 

 

7歳年下の同僚男性とダブル不倫の果てに、相手の男性の境遇を慮ったことで自ら身を引き、仕事も家族も生活もすべてを失った女性。夫から離婚されて娘は引き取られ、実家に戻ると厳しい母親から厳しい叱責を受ける日々に疲れ果て、新しく住む場所と仕事を探すことから人生の再出発を図る。理解者の叔母の仲立ちでデイケア・サービスの仕事を得、職場の紹介で居室の1室を与えられて新しい生活が始まるが、周囲から見放されて一人になったことに心が癒されることはなかった。ある日外出から戻って来ると、玄関前に佇ずむ男性の姿に気づき、それが1年前に泥仕合を演じた不倫相手の男性であることを知って激しく動揺する。男性が突然訪ねてきた真意がわからないまま、女性は距離を置きながらも少しずつ男性を受け入れるようになり、やがて再び一線を越えてしまう。男性には離婚に肯んじない妻がおり、不安な中で関係を続ける二人だったが、お互いに求めあうものが相手の存在であることに気がつき、幸せな時間を送る中で二人の将来を決定づける重大な出来事が起こる。

 

以前に、著者の「情事の果て」という不倫小説を読んだことがあって、不倫関係が好きな作家なのかなと思いながらこの作品を読みましたが、途中で「情事の果て」のその後に当たる続編であることに気がつきました。前作の読後レビューでは、肯定的な感想を書いていましたが、その続編の物語もまた不倫を徹底的に追求する作品であることに、あまり受け入れられるところはありませんでした。お互いに本当の相手であることを認めて再び関係を深めるという展開は、全くありえないことではないのかもしれないけれど、それを突き詰めていくにしたがって周囲に傷つく人間が増えていくのがやるせないです。でも著者のすごいところは、そういった人間たちの心情を深く掘り下げて描くことで、心が癒され、希望を見出していく気持ちの変化にも触れていくことです。また、前作で二人の不倫が破綻するきっかけを作った売れっ子作家が、本作では二人の関係を暴き出すような新作を書いて復讐を果たしますが、その作品が一人の読者の心を動かすことになって窮地に陥った女性に救いの手を差し伸べるという、とても皮肉な結果をもたらすところはさすがとしか言いようがありません。不倫を肯定するものではありませんが、好みは別れるにしても大人の恋愛小説としてとても楽しめる作品でした。