下町やぶさか診療所 沖縄から来た娘/池永陽 | なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

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なおぱんだです。
北の国から、読んだ本、買った本、大好きな曲、そして日々思うことなどをポツリポツリと書いてます。

 

 

下町で古くから市井の拠り所となっている診療所。患者たちの愚痴を聞きながら診察を続ける老医師は、自殺未遂を図って受診に訪れた女子高生を引き取り、さまざまな苦しみや悩みを抱える患者たちと交流させることによって、女の子の心の傷を癒そうとしていた。ある日、沖縄からやってきたという娘が診療所を訪れ、老医師は自分の父親ではないかと告げる。心当たりについて煮え切らない態度を示す老医師に周囲の人間は不信感を抱くが、その理由は、老医師が若いころに訪れた沖縄での不思議な経験があった。老医師は沖縄に赴いて当時の親友と旧交を温めるが、娘の父親に関する事実を知るであろう彼女の母親は所在不明となっていて、その背景に過去に伝染病として患者に悲惨な境遇を強いたハンセン病があることを知った老医師は、かつて想いを寄せた娘の母親の行方を懸命に捜す。

 

やぶさかシリーズの第3作ですが、前2作とは趣向を変えて長編作品となっています。著者の作品に沖縄戦を舞台にしたものがありますが、この作品もハンセン病の隔離施設がある沖縄モチーフにしていて、沖縄古来の霊媒師であるユタや神聖な御嶽(うたき)巡りなどの沖縄の信仰を絡めながら展開していく物語に、著者の沖縄に対する強い思い入れを感じます。お人好しでおせっかいな老医師が、初対面の女の子から突然父親だと指名されたことに動揺し、その過去の記憶から事実を突き止めようと沖縄に向かい、そこで一緒に連れて行った古武道の修得に明け暮れる女子高生が、沖縄空手の達人に触発され、武道の奥義のコツひらめきを得て人命を救うなど、意外でスピーディな展開がとても楽しめました。そこに国家的な負の遺産ともいえる伝染病として迫害された病の歴史を編みこむなど、人間ドラマとしても十分に読み応えのある作品でした。