私の男/桜庭一樹 | なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

なおぱんだです。
北の国から、読んだ本、買った本、大好きな曲、そして日々思うことなどをポツリポツリと書いてます。

 

 

自ら選んだ男との結婚を控えた女性は、幼いころに震災で家族を失い、オホーツクの町で働く一人の親せきの男に引き取られて実の娘のように育てられた。当時9歳の少女だった女性と男とは16歳しか年が離れていなかったが、少女は彼をおとうさんと呼んで誰よりも慕っていた。二人の間には他人には理解できない秘密の関係があり、その秘密が暴かれようとした時に、少女はそれを守ろうとして行動を起こし、二人はそれが元で密かに北の町を離れて東京に逃げる。大人になった女性は、二人の間にある関係から抜け出せなくなることに次第に焦りを覚え始め、結婚することで父親の元から離れることを決意する。しかし、それは二人の関係に永遠に終止符を打つことになるのだった。

 

思わず我を忘れてしまうほどの衝撃的な展開でした。近親相姦を想像させる青年と少女のみだらな関係に、異常なまでの緊張感と脱力感に交互に襲われるとともに、二人が交わす切ないまでの愛情と誰も寄せ付けない孤独さに胸の奥が熱くなりました。生きることの意味を確かめるためにお互いを求めあう姿は、狂気に満ちた獣そのものであり、常軌を逸した愛の形に何者も触れられない孤高さを感じますが、それが永遠に続くものではないことに安堵している自分がいました。家族の愛を知らない二人を「欠損家庭」だという指摘に、「欠損していない家庭などあるものか」とうそぶく青年。二人の欠損を補うものが、普通の家族の愛情を超えた男女の関係であり、人間として許されることのない愛の形が、他人の命を奪い、不幸にし、やがて自らも朽ちていく。終始退廃的な気に満ちていながら、生きるための究極の愛を描いた作品でした。