国宝(上 青春篇・下 花道篇)/吉田修一 | なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

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なおぱんだです。
北の国から、読んだ本、買った本、大好きな曲、そして日々思うことなどをポツリポツリと書いてます。

 

 

 

 

九州の炭鉱町を拠点にするヤクザの親分の息子とその幼馴染の少年は、仲の良い兄弟のように育てられてきたが、勢力抗争によって親分である父親が殺害されたことで、縁があって京都の歌舞伎役者に引き取られる。元々素人役者として舞台に立った経験がある2人だったが、幼馴染は早々に歌舞伎に見切りをつけて演劇の道に進み、少年は師匠の息子をライバルにして立派な役者に成長していく。そんな中、師匠が重い病に倒れ、引き取った少年を自分の跡継ぎに指名したことで、師匠の息子は衝撃を受けて行方不明となる。その後、少年は役者として飛躍的に成長し、花柳界の掟やしがらみに揉まれながら名女形の青年になるが、そこに行方不明となっていた息子が再びライバルとして現れ、2人はお互いに切磋琢磨しながら歌舞伎の芸を昇華させていく。そして、歌舞伎の舞台に立つことだけを人生として生きてきた青年は、役者を超えた存在となって最後の舞台に立つ。

 

この作品はものすごく良かったです。歌舞伎という伝統芸能のしがらみに絡み取られた世界に生きる二人の青年の生きざまが、とても対照的でありながら強い絆で結ばれた成長物語として描かれています。'60年代前半から約半世紀の時代の移ろいとともに、歌舞伎役者としての人生を生き貫いた一人の男を中心にして、花柳界のしきたりや黒いつながり、女性関係などのスキャンダラスな背景を絡ませながら、芸を厳しく追求し人生そのものに昇華させようという、まさに歌舞伎に生きて歌舞伎に死んでいこうとする姿に圧倒的な迫力を感じます。語り口調の文章も、まるで男たちの人生を一つの舞台として見せてくれるような演出的な効果があり、読み終えた後も胸の奥底に重く沈み込むような存在感を残してくれます。歌舞伎に興味を持たなかった私も、この作品を読みながら歌舞伎の動画を観て比較したくなったほど、舞台の情景が思い浮かんでくるようないい作品でした。