ユーラシアの双子(上・下)/大崎善生 | なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

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なおぱんだです。
北の国から、読んだ本、買った本、大好きな曲、そして日々思うことなどをポツリポツリと書いてます。

 

 

 

長く勤めていた会社の早期退職制度を受け入れて、50歳で無職となった男。数年前に長女を自死によって失い、その衝撃的な出来事が妻との離婚のきっかけとなった。話し相手もなく孤独な日々を過ごすうちに、形式的に職探しに訪れたハローワークで旅行会社の求人広告を目にし、衝動的にシベリア鉄道に乗って大陸横断に向かうことを決断する。フェリーで日本を離れ、ロシアに渡って鉄道に乗り込んだ後は、単調な時間だけが過ぎていくが、娘を失ったときの記憶が浮かび上がり、娘が抱えていた恐怖に手を差し伸べることができかった後悔が心を苛む。そんなある日、途中下車したロシアの街で、ヨーロッパの西端にたどり着いたときに自らの命を絶とうとする若い女性の存在を知り、その思いを何とか思いとどまらせようとして、自分よりも先行する彼女とコンタクトを取りながらその後を追う。まだ見ぬ女性の死を止めることは、男にとって自死した娘への贖罪でもあった。

 

上下巻の長編作品ですが、一気に読み進みました。著者の作品には海外を舞台にしたものがありますが、これはシベリア鉄道による大陸横断という壮大なスケールで展開する作品であり、そこに魂の喪失と救済を絡めながらスピード感あふれる物語となっています。大事な家族を失った悲しみを胸の奥に抱えながら、ヨーロッパという異国の舞台で見ず知らずの他人の命を救おうとして奔走する男の姿は、ともに人生をやり直そうという希望に溢れ、命に向き合う必死さが伝わってきます。そこに偶然が重なり必然となって男を後押しする不思議な力も加わることにより、娘を救うことができなかった男自身の魂も救われるのだろうと感じました。著者は札幌出身で、近所に釧路出身の作家である原田康子が住んでいたことは有名です。