ファイヤーボール/原宏一 | なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

なおぱんだのひとりごと。 ~読書と日々に思うこと~

なおぱんだです。
北の国から、読んだ本、買った本、大好きな曲、そして日々思うことなどをポツリポツリと書いてます。


著者のサラリーマンの悲哀を描いた作品は、他の作家の追随を許さない面白さです。この作品も、社内競争に敗れて窓際に追いやられた管理職の男が定時退社で時間を持て余すようになり、妻の代わりに町内会の会合に出席したことで大きな騒動に巻き込まれるコメディ作品です。

世界を駆けまわる商社の管理職の男は、帰国後に直行した会社で左遷人事を申し渡される。理由は、社内闘争に勝った派閥側が反対勢力の一掃を図ったものであり、唐突なことながらも返り咲きを目論んで閑職を受け入れる。定時出勤定時退社の日々を送るうちに、家族からは疎んじられて自分の居場所を見失いそうになるが、そんな時に妻から町内会の会合に代理出席するように頼まれ、その席で町内会長に対して意見したところ、その一言が会長派の反発を買ってしまう。その時の議題は、秋に開催予定の町内会の祭りについてであったが、男は行きがかり上従来のお祭りに代わる新しい企画を提出することになり、暇な時間を使って実現不可能なものと本命の2案を練り上げる。会合で意気揚々とプレゼンし、本命案に決まりかけたところで、会長の悪知恵によって実現不可能な案が採択され、男はその責任者に指定されてしまう。その案とは、町民が巨大な火の玉を町中で転がすというものだった。男は難問山積に頭を抱えるが、古くからの町民と移入してきた町民との確執を解消するために、仲間を募って祭りを実現しようと立ち上がる。

あらすじだけでもバカバカしい物語なんですが、それをみごとにドラマに仕上げているのが著者のすごいところです。家族や仲間同士の絆と人間の温かさ、くだらない事でも最後までやり遂げることによって得られる快感、成功に導くプロセス、そういったものが巧みに織り交ぜられて感動のラストを迎える。そこが著者の作品が持つ魅力です。家庭を顧みることのない会社人間が、会社からはじき出されてみて初めて気がつく家族の存在。自分は誰のために働いているのか、その理由を知った時に、生きるための本当の目標が見つかるんだと思います。

祭りが最高潮に達する結末のシーンで感動もピークを迎え、とても温かい気持ちに浸ることができました。