6月は図書館で予約した本が一冊もこず、読書しない月だった。
今月になって、どさどさ笑いと予約待ちしていた本が回ってきた。
その第1冊目。

私の勤務先は五反田だ。パートのおばちゃんである。

最近は五反田バレーなんてアメリカアメリカシリコンバレーをもじった言葉が。

IoTAIなどのスタートアップ企業が集積する五反田エリアを意味する。

この本は世界に羽ばたく五反田みたいな話なのかびっくりマークと期待して予約。

パートのおばちゃんである自分はそんな業種とは全く無縁だが滝汗

 

そもそもこの本を見つけたのは下差しこちらの本を先に読み、この本の作者の
他の作品を探していたら五反田を冠するタイトルのものが出てきたのである。

上矢印こちらはリュートに興味を持って習い始めた作者が、リュートの歴史を

調べていくうち、中世の歴史に話がどんどん飛躍していく内容。

 

私は昔モロッコ&スペインに行った事があるが、作者もリュートに関する事を

調べたい一心でその2国へ行って事を書いていて、私が訪ねたにもかかわらず、

忘れてしまっていた場所を思い出させてくれた。

しかし他の内容はほとんど忘れてしまったタラー中世の歴史で小難しい。

 

筆者の星野さんは品川区に生まれ育った人。
彼女の祖父は第1次大戦中に千葉・外房の漁師町から
東京・白金の町工場に就職し、その後、独立して五反田に工場を構える。
 
世界は五反田から始まったと言うのは作者個人の世界という意味かい!?
しかも実際は五反田ではなく実家があるのは戸越銀座
この辺りをひっくるめて筆者は大五反田と言い、自分は五反田ロンダリングしてる
とまで言っている。
 
私はある意味地元民なので、この辺りの違いが分かるが、東京に住んでない人、
いや東京在住の人でも、この品川区の中のほんの1地区の話がわかるのか?
しかも祖父が亡くなる直前に残した手記を元に、筆者の家族の話と五反田辺りの歴史の話。
延々、この人の家族の話を読まされるの~?ファミリーヒストリーってやつ?
 
次第に読む気がしなくなっていったが、それでも自分が知ってる店や会社やビルの
名前が出てくるので、そこは興味があり読み進める。
それらは例えばPOLA化粧品(ここの基礎化粧品使ってます)本社や、大がかりな検査や処置
(メスを使って出来物を取るとか)の場合、お世話になるNTT東日本関東病院病院
そして積水ハウスが地面師に55億5千万円を騙し取られた土地びっくり海喜館などである。
 
出勤時に通る場所にあった海喜館。
もう使われていない旅館であちこち朽ち始め、薄気味悪い存在だった。
しかしあの騒動の1年後位だろうか、取り壊され、今はタワーマンション建設中。
通勤時に通るので撮ってきた。
 
因みに建築主は積水ハウスではなく…

旭化成不動産だそうな。
 
そしてPOLAの本社とその隣のNTTコムウェアがある辺りは軍需工場があったらしく、
その工場は小林多喜二「党生活者」という作品の舞台だったとのこと。
 

山手線沿いのポーラ本社ビルとNTTコムウェアビル
この辺りに工場があったと。
飛行機用落下傘(パラシュート)と防毒面(ガスマスク)を製造していたらしい。
 

小林多喜二と言えばかに座蟹工船」が代表作だが、私は全部ちゃんと読んでない。

途中で脱落した小説。当然「党生活者」も読んでない。

 

主人公が共産党のオルグ活動で臨時工として工場に潜り込む話らしいのだが、

それは多喜二自身の体験に基づくらしく、ということは小林多喜二

五反田で働いていたという事になる。

このPOLAビルの写真の左から駅までラブホテルラブラブばかり滝汗
かつては工場で働く人の歓楽街だった?
 

五反田周辺は大工場とその下請け工場が多く集まる街だった。

やがて日本が戦争銃に突き進み、それら五反田の町工場は軍需工場としての
役割を担う事に。
小さいながらも筆者の祖父の会社も戦争の兵器の一部となっていたわけだ。
「うちも、戦争に加担していた」筆者は書く。
 
?反戦の話?共産党の話にも触れたし…
この作者さん、の人か?
この本は大佛次郎賞を受賞している。
大佛次郎賞朝日新聞が主催。え~、やっぱりそっちはてなマーク
読むのやめとこうか…
と思い、読むスピードが急激に遅くなる、というか読まない日々が続いた。
 
それでもよく知る五反田の話だから、やはり少しずつ読むことに。
もし五反田に絡んだ本でなければ、読むのを放棄していたかも。
いや、そもそもこのタイトルでなければ借りて読むことはなかったのだが。
 
筆者は祖父の手記を手掛かりに様々な史料を調べ、五反田と戦争の関わりを書き連ねる。
 

戦争が長引き、日常の物が配給制になると、ぜいたく品、娯楽用品などの平和産業

言われる小売業は商売が成り立たなくなる。

それで武蔵小山という同じ品川区で五反田の隣町!?辺りの商店街の人たちは

開拓団として満州に渡る。

そして彼らの運命はソ連満州侵攻により悲劇となる。(集団自決が多かったらしい)

 

そして五反田界隈は1945年5月24日の米軍の空襲飛行機爆弾によって焼け野原メラメラになる。

筆者の祖父は妻子を埼玉県越ケ谷に疎開させ、自分は五反田の工場で働き続けていたが、

その空襲の日は、偶然にも越ケ谷にいたらしい。

そもそもこの人は徴兵検査に落ち、出征していない。

若い頃から町工場で働いていて、粉塵を吸い込んでいたせいか肺浸潤を患っていたと。

(しかし直接の原因は視力目が悪かったから、と祖父の手記にあったらしい)

何かにつけ祖父は運が良かったと筆者は書く。

 

さて、この本の最後の章の小見出しにある

「戻りて、ただちに杭を打て」という言葉。

この本の重要な教訓、キーワードだと私は思う。

 

筆者が子供の頃、祖父は

「ここが焼け野っ原になったらな、すぐに戻ってくるんだぞ。

家族全員死んでりゃ仕方がねえが、1人でも生き残ったら何が何でも

帰ってくるんだ。

そいでもって、すぐ敷地の周りに杭を打ってほしのって書くんだ。いいな。」

と言い聞かせていたらしい。

子供だったので、筆者はその意味が全くわからなかったが

「そうしねえと、どさくさにまぎれて、

人さまの土地をぶんどる野郎がいるからな。」

と祖父は続けて言ったらしい。

 

筆者が過去の資料を読んで見つけた話のひとつ

あるおばあさんは自分の地所を守るため、竹の柵で囲っていた。

するとその柵が倒され、朝になると戻っているという。

戻す時におばあさんの土地を少しずつ狭め、自分(倒した奴)の土地を

増やしているのだと。

 

柵を立て、そこに転居先や疎開先を書くだけではダメ、

そこに陣取り監視せねば!!

祖父の言う事はそういう事だったのだと。

悲惨な状況下でも生き抜く知恵と言おうか。

 

また先に書いた5月の空襲(城南空襲)は、東京の下町で10万人以上の犠牲者が出た

東京大空襲に比べ、単位面積当たりの焼夷弾爆弾投下数が2倍だったのに、死者が

250人余りと圧倒的に少なかった。

 

戦時中の日本では、空襲を受けても国民は逃げずに消火波することが義務付けられていた煽り

東京大空襲では規則通りに消火活動をした人たちが逃げ遅れ、犠牲者が多かったのではと。

 

城南空襲で隊長が「逃げるとは何事だ!非国民!家を守れ!」と怒鳴ったが、

誰も耳を貸さず逃げたという手記を筆者は紹介している。

また前もって柵や有刺鉄線を(逃げられるよう)取り壊しておいたという手記もあり、

人々は東京大空襲から逃げる事を優先するという教訓を得ていたのではと。

 

祖父の手記を読んで、筆者は戦争が起きた場合のハンドブックを読んでいる気分

になったと書いている。

確かに私もサバイバルノートを読んでいる気分になり、後半は一気読みした。

防空壕に居続けると蒸し焼きになるから逃げろ、防空壕の中には家財道具を、

暗い方に逃げろ、川に飛び込めetc.

 

「逃げろ~」ではなく…
先週から始まったドラマ「シッコウ!!」で織田裕二さんが全力疾走するのは…
 
 

戦争は起こしてはならない。平和を守るために、どのように思考し、行動すればいいのか。

そんな抽象的なことばかりを考えていたような気がする。

しかしいまは、少なくとも、戦争、あるいは戦争に類似した何かが起こることは

十分にありうる(とういうか、すでに始まっている)と潜在的に察知しているらしく、

そんな場合に生き延びるためのヒントをさがしているようなのだ。

(本文より)

 

のび太はケンカしたくないのに、ジャイアンが手を出してくるパンチ!

戦争はしてはいけないと言いつつも、ウクライナのように先方が攻撃してきたら

どうしようもない。(漫画と同列に語ってはいけないけれど)

じゃあ、襲われたらどうしたらいいの?

生き延びるためにはどうすればいいの?

 

戦時中というと、軍国主義一色に染まり、監視し合う空気の中、大本営の情報をただ

鵜呑みにして独自の判断力を失った無知蒙昧な日本国民、という印象が強い。

しかし被災した一般市民の語りに耳を傾けてみると、けっしてそんなことはない。

国に対して声を上げることこそしなかったが、自分の頭で考え、生き延びる方法を

必死で模索していたのだ。

(本文より)

 

これはコロナ禍も同じかもしれないと思った。

戦争やパンデミック、冷静に自分で判断し、生き延びることが大事。

 

重大な局面に立たされた時の、判断力。

頼る人も組織もない場所にたった一人取り残された時、しなければならない交渉術。

豊かさとも感動とも程遠い、ずる賢さも生き抜くためには必要とも筆者は書く。

 

(悪い)歴史は繰り返さないで欲しいけれど、実際には世界中で紛争が絶えない。

せめて同じ轍を踏まないよう過去の経験から学びたいものなのだが。

サバイバルハンドブック出版されないかな?

あ、自分の頭で考えろってか。

しかし筆者のファミリーヒストリーにとどまらず、確かに大袈裟過ぎる題名の本

という訳でもなかったかな!?

 

五反田でロケだったみたい。
川の奥には東急池上線の五反田駅と五反田の街。(シッコウ!!第1話より)
左奥にクレーンの見える建設中ビルは前述の海喜館跡の高層マンション。
 

とにかく明日も五反田に仕事に行きま~す。

明日は暑さ晴れマシになるかな?