消えてゆく父の味 | つれづれなるままに詩を書いています

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毎日のなかの小さな気づきを綴っています。

20年父が作ったトマト

昨日

最後の一つがなくなった

弾けるほど熟した真っ赤なトマト

両手で持つほどの大きなトマト


毎年夏になると必ず大量のトマトが送られてきた

ときには手に余るほど


私は自慢だった

父のトマトは甘くて

どんな嫌いな子でも好きになった


「そろそろしんどくてな

今年でトマトはやめようかと思って」


80歳を過ぎた父

当然の事


最後の一切れは家族3人の朝食で終わった

20年も食べ続けた


ありがとうね

美味しかったよ

一口一口噛み締めるように食べた


一つすつ消えてゆく父の味

それでいい

一つずつでいい


ロウソクが一気に吹き消されるよりはいい

ただ居てくれる

それで十分だと思わなければ


甘くてとろけるような完熟トマト

トマトにもありがとう


おつかれ様

お父さん


がらんとなった

冷蔵庫をながめた

空っぽになったトマトの定位置

心の中の定位置は着地点を見つけられぬまま


最後のトマトは

潤んで見えた