大変ご無沙汰しました!
こちらでは東京で7年間続けてきました「デュファイ祭」の記事を書きましたが、
今回は、類い稀な中世ドイツの賢者、
聖ヒルデガルトの音楽の
神秘的な魅力をお伝えしたく、
先ずは過去のコンサートのプログラムノートを記載させていただこうと思います。
私は不思議な力に背中を押され、ヒルデガルトの聖歌を歌い、彼女の音楽を愛する仲間と共に77曲の聖歌を紐解いていく活動を続けています。
この響きを懐かしく思ってくださる方々にお伝えできたら幸いです。
これまで長年グレゴリオ聖歌を歌ってきた経験をもとに写本のネウマを手掛かりにしつつ、
私達が持っている旋法的な感覚を思い出しながら、
私達の身体を宇宙の楽器として響かせていけるようにしたいと願っています。
理想は宇宙の響き(ムジカムンダーナ)を我々の身体(ムジカフマーナ)を通し、耳に聴こえる響きとして響き合うことが究極の目標です。👼
⇩2024年のコンサートプログラムより⇩
コンサートに寄せて
ヒルデガルト・フォン・ビンゲンという人物を紹介しようとする時いつも適切な言葉を見つけることができません。
中世ドイツの修道院長、聖人、賢者、神学者、薬草学者、作曲家、詩人、、神秘主義者と言われることもある、こんなスーパーウーマンをどう表現すれば良いのでしょうか。
近年各分野の専門家の方が彼女の偉業について語り興味深い書物を出版され、とりわけ薬草の記述した書を解き明かす方々のご尽力により、自然志向傾向にある現代にヒルデガルトの知恵が見直され知られるようになってきました。今こそ彼女の残してくれた宝が必要な時代であると感じています。それは音楽も然り、和声ができる前の単旋律の音は旋法の音楽であり、グレゴリオ聖歌同様に我々人類が潜在的に持っている心に真っ直ぐ響くものがあります。しかし、ヒルデガルトの音楽はその範疇に留まらない独特な語法、魅力があり、力があり、「聖歌曲 」とでも言いたい芸術作品であると思います。
しばしば使われる言葉「Viriditas」緑、生命力を、小宇宙である人間の身体、声を使って表現している、身体と精神を統合した音楽であると感じています。
貴族の家に生まれ8歳で教会に託され14歳の時に創設されたディジボーデンベルク修道院に入りました。
まだ女性が公に学問を学べる時代ではありませんでしたが、多くの階層の人から霊的指導者として慕われていたユッタから、ラテン語や詩篇、修道生活、またプサルテリの指導も受けました。フォルマール神父に神学の基礎を学びました。
五歳から幻視を体験していましたが、その人生の後半になってから初めて修道院長の許可を受けて天の啓示の内容を記録「道を知れ」「自然学」「病因と治療」「宝石論」など多くの書物を書きました。そして77曲の聖歌集「天の啓示の調和の響き」もつくられました。
本日演奏いたします
3、おお、若枝そして冠よ O virga ac diademaは特に言葉と音楽が密接な祈りそのもの続唱です。この曲はヒルデガルトが生きている時代から最高傑作として認められていました。『病気で伏せっていることが多かったが、精霊に触れるとこの曲を歌いながら回廊を歩く姿が目撃されていた』と1233年の『列聖録』に記されています。
4、「めでたし、マリア、おお、命の創始者」Ave Maria
というタイトルですが、いわゆる典礼で歌われるアヴァマリアのテキストとは異なります。
グレゴリオ聖歌のシンプルな旋律とは似つかないメリスマ多様した技巧的な曲です。ちなみにAveという挨拶の言葉は反対にするとEva となっていることにお気付きでしょうか。ここにもマリアとエヴァの存在が示されています。
しかしながらヒルデガルトは一曲目のO ac diadema の4節目のように、二人の女性を分けず「formanm murieris女の形」という言葉を使い「神の美を映す鏡として、神の創造されたものを全て抱きしめる」としています。
5、「三位一体に賛美」Laus trinitsti
キリスト教における3という数字は大変意味深いものです。父と子と精霊の三位一体がキリスト教の基本です。
6、「おお知恵の力よ」O virtus Sapientiaeに登場する三つの翼は
イザヤ書6章に出てくる6枚の羽の天使のイメージでもありますが、
最初の羽は御父のように天に舞い上がり、2枚目は受肉した御子のように地上に3枚目は精霊の生命力という意味を持ちます。
ヒルデガルトは創造は知恵の服であると言っています。服がその人の体を暗示するように、知恵は隠れた神を啓示するものであると。幻視の中での〈知恵の姿は白いシルクのローブに真珠の散りばめらた緑のチュニック、黄金の宝石をつけていた。〔バーバラ・ニューマン著ヒルデガルト・フォン・ビンゲンより]ヒルデガルトとその修道女達には豪華な服を纏う喜びもあったようです。
7、「おお、この上なく新鮮な緑の若枝よ」O viridissima virga
この二つの単語はヒルデガルトが最もよく使う言葉でもあります。virga (若枝)は一瞬virgo(おとめ)と見間違えてしまう似た言葉ですが、敢えてこの言葉を使ったのだと考えられます。
イザヤ書「天やを露を滴らせよ」マタイ福音書「その枝に空の鳥が来て巣を作る」「神の国は、心の中にある前の種に水や肥料をやり、雑草を抜けばしっかりと善の心が育ってゆく」
など彼女の中にある聖書の御言葉から生まれていると思われます。
自給自足の修道院の生活で、自ら土を耕し植物を育て大地の恵みを体で感じ、信仰の神秘を表現している美しくも生命力に溢れた曲です。
8、「おお、照らし出された方よ」O tu illstrata
暗闇を静かに照らす蝋燭の光が徐々に広がり明るくなり、マリアの歴史的なスペクタクルを劇的に美しく歌った名曲であると思います。
10、「おお、いとも気高き緑よ」O nobilissima virga
77曲中二曲だけ修道女達のために作られた歌の一つです。彼女達をマリアになぞらえ、少し民族的な音楽を思わせる響きで神聖な抱擁に包まれています。
11、「おお、魂の羊飼いよ」O Pastor animarum
迷える羊を良い羊飼いが探すという譬え話からの
魂の羊飼いではじまります。
迷える心の切実な懇願のような歌であります。
12、「今日開かれました」Hodie aperuit
クリスマスなどの祝日で歌われたと思われる理由は
写本によってはHodie aperuit今日でなくNunc aperuit となっており、いつでも使えるように変更されたと思われるためです。
このコンサートのチラシに使いました美しい絵画は
後の15世紀のライン川中流の画家による「閉ざされた庭」で旧約聖書の雅歌から取られています。聖母マリアを象徴する百合や薔薇などが咲き、アダムとエヴァの楽園の中心に知識の木と命の木も見られます。そして幼子イエスが、ヒルデガルトも愛用しており、今日使われます楽器の1つであるプサルテリーを演奏しているのはとても興味深いです。
12世紀修道院の精神性である処女性を例えられることがよくありました。
ヒルデガルトにとってはこの門はアリアの胎内をあらわしており、処女の母性の力を象徴しているとおもわれます。
また園の花が再び開かれた門から暁に輝いている。
女muliere であるエヴァが蛇の策略により処女の母性をうしない、同時に、命を与える園への門を閉じ、エヴァの子供たちを園から断絶し、園内で咲く花の種を窒息させたが、
解放された聖母から芽生えた花が開かれた門から暁の光に輝く様子を現しています。
ありがたいことに二つの写本が残されており、記譜されたネウマを手掛かりにしてインスピレーションを受けて歌い方を模索しています。もちろん正解はわかりませんが、読み人知らずのこの時代にしっかりと後世に残したいという意思を感じ取り感謝して歌いたいと思っています。
計り知れない叡智によって私達を満たしてくれますように。
この祈りが天にそして皆様の心に届きますように』
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🌸次回は、現在取り組んでいる曲について書いてみたいとおもいます。お読みいただきありがとうございました。🌸

