遅い食事を終え、琴子と連れ立って二階に上がる。
部屋に入るとすぐに、琴子の服がベッドの上から落ちそうなほど広げられているのが目に入った。
「あー、いけない。忘れてた。ごめんね。すぐ片付ける。」
慌ててベッドに駆け寄り、服を搔き集め始めた琴子。
「何かあるのか?」
どう見てもどこかに出掛ける前の恒例のファッションショーだ。
「幹ちゃんから連絡があってね。出掛ける日が決まったの。」
そういえば駅前で偶然会って、皆で会う約束をしたとか言ってたな。
「明日なのか?随分急だな。」
「違う違う。4日になったんだけどね。気になっちゃって...気分転換?」
机の上には広げられたままのテキスト―
いつものように復習していたところに連絡が来て、嬉しくて勉強が手につかなくなったってところか。
琴子らしくて笑いそうになる。
気もそぞろなまま机に向かうよりも気分転換は良い判断だ。
「で、決まったのか?」
服の量から察するに結構な時間悩んでいたようだ。
「着ていく服?」
頷く俺に、琴子がもう一度抱えた服に目を遣った。
「うーん、なんとなくこれかなっていうのは決めたけど。」
まだ迷っているのか琴子はどこか思案顔だ。
ベッドに広げられていた服に見覚えのないものはなかった。
以前だったらオフクロが「可愛かったから」「似合いそうだから」と自分の趣味であれこれ買い込んできていたから、いつの間にか知らない服が増えているということがよくあった。
予想に反して琴子を買い物に連れまわすこともなく、オフクロも勉強の邪魔にならないよう遠慮して自重しているようだ。
「買いに行くか。」
「え?」
「落ち着いたらって言っただろ。」
大きな瞳を丸くして固まる琴子に微笑って言う。
神戸で新幹線に乗る前に向かったハーバーランド――
琴子があまりにも嬉しそうに夏に買った洋服のことを話すから、なるべく早くまた買ってやりたいと思った。
琴子が復学してからはお互いに忙しく、週末はあっという間に過ぎていった。
“なるべく早く”はゴールデンウィークになりそうだとも思っていた。
「覚えててくれたんだぁ!」
抱えていた服を放り投げて俺に突進してくる琴子。
「当然。」
どんな小さな約束でも忘れたりしない。
「ありがとう。」
「買ってもないのに早いだろ。」
からかうように言うけれど、本当は可愛くて仕方がない。
「入江くん、大好き。」
ぎゅっと抱き着いてくる琴子。
「知ってる。」
柔らかく響く声そのままに、琴子の背中にふわりと腕をまわした。
~To be continued~