「琴子ちゃん、ごめんなさいね。私、つい、カッとしちゃって。」
「い、いえ。」
「まーまー。そー落ち込まないで。」
「あんたならもしや...って、みんな思ってたことだし、覚悟してたわよ。」
「にぎやかな、めったにない卒業式でよかったじゃない。」
「さっ、みなさん。写真とってあげましょ。並んで。琴子ちゃん、笑って。せーの。」
パシャ
「あっ、金ちゃん。」
「また、あなたなのーっ。もーっ。」
「いやいや。なー、琴子にちょっと見せたいもんがあってね。よぉ見てくれや。」
「こ、琴子、おばさん。ち、ちょっと、あれ。」
「いやー。他の女どもに引きちぎられんよーにしとかなあかんよってな。『予約済』って札つけといたんや。」
「い...いーっ、いーわねぇ。卒業式にキスなんて...」
「やっぱりこれよ。卒業式はこれでなくっちゃ!!」
「う、うらやましいっ。なんで私たちは...あーっ、お兄ちゃん、じれったいわねぇ。こんな素敵な日にぃぃ。」
「まぁ、まぁ、おばさん、こればっかりは。」
「うらやましがることないで、琴子。おれがちゃーんと...」
「あっ、あ~~~っ、こ..琴子!入江くんに1年生の女子が告白してるわっ。」
「第二ボタンせがんでるのよ。とんでもない子ね。」
「あっ。泣きながら走ってった...よ、よかったね。ふられたわよっ、琴子。」
「な、なんだか一年前の自分をビデオで見てるみたい...うっ..か、かわいそう。」
「まぁ、そーなの。お兄ちゃんたら。あのお嬢さん、私のボタンでよければねぇ...あら、また来たわよ。」
「あの子は2年生よ。」
「まぁ、もてるのねぇ。お兄ちゃんも。」
「入江さん。あ、あの写真を一緒に...」
「イヤだね。」
「い、一枚でいーんです。」
「しつこいな。」
「わぁぁぁぁぁん」
「その調子よ、お兄ちゃん!!よーし、次は琴子ちゃん行って来なさいな。」
「えっ?」
「ふふふ。ここで今の子達と差をつけなきゃ。第二ボタン下さいって言うのよ。
それから写真一緒に撮ってって言うのも忘れずにね。ああいーわ、この雰囲気。青春ねぇ。
キスしちゃってもいーのよ。ドキドキしちゃうわっ♪」
「がんばってーっ!!」「琴子ーっ!!」「ほら早く。ほらほら。」
「う...うそ。うそ。マジで...だって。」
...アイツ、俺のとこ、来るんじゃないのか...何やってんだ...
はっ!!...入江くんと目が合っちゃった...
。。。あっ、入江と相原だ。。。あーまた相原さんだ。。。
「何だよ。」
「えっ、えっ...えっとね。」
「まさか第二ボタンくれとか言わねーだろーな。」
「あっ、当たり...」
「やらねーよ。」
「えっ。じ..じゃ、写真...」
「とらねーよ。」
「うわぁーん。おばさーん。」
。。。あっ、相原さんがまたふられた。。。
「ふんっ。」
...おばさんの圧倒的権力で、私は幸福にも一枚写真を撮ってもらえた...やっぱ、卒業式はこうでなくっちゃね。
「せーの。」
「でたぁ。」
...じんこと理美と3人で、一緒に門の外にジャンプして飛び出した。
毎日毎日当たり前のように通っていたのに、明日からはもうここに通うことはない。なんだかちょっと不思議だ。
高校3年間、ほんとうにいろんなことがあった。じんこや理美、F組のみんなとたくさんの想い出ができた。
でも、入学式で一目惚れしてから、私の高校生活はやっぱり入江くん一色だった。
はじめて入江くんを見たとき、王子さまを見つけたと思った。かっこよくて、頭がよくて、スポーツ万能で...
でも、私の王子さまはそれだけじゃなかった...すっごく意地悪で、氷のように冷たくて...何度も泣かされた。
一緒に住むことになってわかった王子さまの本性...でも、ただひたすら憧れてた時より、もっと好きになった。
私に一生懸命勉強を教えてくれた。そのおかげで50番になれた。1番と50番...同じ紙に載れたあの光景。
痴漢から助けてくれた本当に王子さまみたいだった入江くん。コックさん顔負けのエプロン姿の入江くん。
宿題を手伝ってくれた夏休み最後の二人っきりの夜。ケガをした私をおぶって保健室まで運んでくれた運動会。
意地悪で冷たいはずの入江くんは、ときどきすっごくやさしくて..泣きたいくらいしあわせだった。絶対に忘れない。
数え切れない宝物のような想い出たち...手紙を受け取ってもらえなかったあの日を思えば夢みたいな日々。
そう夢みたい...入江くんと友達になりたい。私のこの2年間の想いを知ってほしい。そう思って書いたラブレター。
入江くんは私のこと、いまだって友達だなんて思ってない...でも、友達より近くにいる気がするのは、勘違いかな。
「耳にタコ」...好きにはなってもらえないけど、私の想いは伝わってると思うのは、間違いなのかなぁ。
私はまだ入江くんと一緒に暮らせるし、また4年間同じ大学に通える...うれしさと同時にズキンと胸が痛むけど、
せっかくまた同じ道を歩けるのだから、一生懸命入江くんの後姿を追いかけたい。その背中に追いつきたい。
そして、いつか、隣りを歩ける日が来たらいいな...肩を並べて歩けるそんな日が来たらほんとうにいいな...
~See You Next Time~