アスパンの恋文 | 宮菜穂子オフィシャルブログ「菜時記」Powered by Ameba

アスパンの恋文

ヘレナ・ボナム・カーターの『鳩の翼』
ニコール・キッドマンの『ある貴婦人の肖像』
少しさかのぼって、デボラ・カーの『回転』。
などの原作者、ヘンリー・ジェイムズ。

読み終わって、私の好きな映画のモト本の人だと気づきました。
翻訳者である行方昭夫さんのものをさがしていったところ、
手に取ったこの『アスパンの恋文』。

アスパンの恋文 (岩波文庫)/ヘンリー・ジェイムズ

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いやはや面白い物語でした。

ジャーナリズム欲、というのか、
知りたいという欲求と、
思い出を守りたいという欲求と、
そのはざまに漂う無垢な中年女性。
その3人がゴンドラの町ヴェニスで生活をする、ある夏。

芝居になったら面白いのに。
あ、昔イギリスで芝居になったんだそうです。

「わたし」の一人称で語られるこの物語は、
まるで読者の私自身もゴンドラに揺られているように、
物語のなかをさまようことができました。

人生のただ一点の輝かしき青春時代、
たぐいまれなる詩人に愛された時間を、
その思い出の手紙とともに、
誰の目にもふれさせたくないと思う気持ち。

たぐいまれなる偉大な詩人を研究し、
その隠された手紙を手に入れることで、
後世にさらにその才能を伝えたいとする気持ち。

どちらもどちらです。

昔わたしの母は言うてました。
わたしの物は、みないで焼いてね、と。
自分の記憶は自分のものだから、と。
いったいぜんたい記憶というものは
誰のものだろかと考える日々が、
その会話の日からずっと続いているのですが、
たぶん、わたしは、その言葉どおりにするのだろうなと、
思うのでした。