相思双愛 | 宮菜穂子オフィシャルブログ「菜時記」Powered by Ameba

相思双愛

『相思双愛』@紀伊国屋ホール。


原作:横光利一「春は馬車に乗って」 重松清「四十回のまばたき」
脚本:倉持裕  前川知大
構成・演出:近藤芳正  桑原裕子
出演:坂井真紀 辺見えみり 近藤芳正/榎木孝明

菜時記

泣かされました。

いえ、泣きました。

二つのお芝居が別個に進むのではなく、

折り重なって進む。

大正時代の妻と作家の夫。そして来訪者。

現代の妻を亡くした翻訳家と、義理の妹。こちらも来訪者。


看病と仕事のはざ間の夫、生と死のはざ間の妻。

その二人にはたえることない会話。

自分のしたいこと、相手にして欲しいこと、

所詮他人同士の夫婦、行き違うばかりなのに、

ゆるぎない愛で結ばれているからこそできる、

たえることのない会話。言い合い。

コミュニケーションの連続。


妻の不貞を死後に知り、悩む夫。

父親のわからない子を妊娠中、

季節性感情障害で冬眠にやってきた義理の妹。

居なくなってしまった人に蓋をしていた夫に、

義妹がたくさんたくさん話しかける。


本当に大変なヒトは、ヒトの心を開く。

「あってもなくてもいいケータイみたいに、

私のこと、なくてもいいなんて言わないでね」という台詞。

えみりさんの台詞。ずきゅん。


原作にはもっと女性側に焦点があてられて描かれているのだそうだけれど、

何気ないヒトコト、

ありがとう、うん、ねぇ、そう、そっか、やだ、

そういうコトバで、人生が見えるようでした。

何気ないため息、咳払い、咳、そういうなんでもないことが、

とてつもない要素を占める。


緻密な会話劇、社会派であり、文学的でもあり、

とっても得るものの大きい舞台でした。