グローライトのサイクルを10時/10時に変える。光が当たるのを18時間から12時間に減らし、夏も終わりとカナビスの木に錯覚させて開花期に導く。これから2ヶ月ちょっと、少女たちが女になるのを温かく見守る。


外は逆に急に暑くなり、春を飛び越して夏模様。これから観光シーズンに突入する。予定では忙しくなる前に収穫を済ませて夏のピークは栽培を休むつもりだったが、7月末までかかりそうだ。一日中冷房をつけていないとグロールームはライトで熱くなる。電気代がかさむがまあ仕方ない。ショーグンもパープルクィーンもフサフサと葉っぱを茂らせ、茎もしっかりしている。久々の傑作では?と期待で胸が膨らむ。 


オーガニックの肥料を与え、少し葉っぱを取り除き、スプレーでシャワーを浴びせた後、急いでロングアイランドシティの長男家へ向かう。タイソンは朝早くから撮影の仕事、アクセルを見ていてほしいと頼まれ、「喜んで!」と孫の世話に赴く。


アパートに着くとママのカオルに抱っこされた生後7ヵ月のアクセルは「ん?この人たち知ってるぞ」といった顔でオレとナオを見つめる。「グランパとグランマ覚えてるよね」カオルが尋ねるとニコッとされ、ハートを射抜かれる。ここではしゃぎすぎるとビックリされて泣かれる と氣を鎮めて心を落ち着かせ、カオルから渡されてナオがアクセルを抱えると、おとなしく胸元でくつろいでいる。「床で遊ばしても大丈夫だよ、ミルクとオムツはここ」ざっと子守の指導を受け、孫のケアを任される。「いい子にしててね」愛おしくアクセルに触れて、アッパーイーストサイドの職場へ向かうカオルを頼もしく思った。


アクセルと会うのは数えるほど。でも強いコネクションを感じる。ナオから渡された小さな身体を胡座をかいた膝下にちょこんと座らせ、ジーッと無言で会話する。「覚えてるさ、爺やこそボクを忘れないでよ」「昨日子供服見に行ったんだけどいいのなかったんだ、カッコ悪い服じゃ嫌だろ」ライオンの立髪のような剛毛と濃い眉毛がタイソンに似ている。この子に見上げられる男になりたい、深くそう思った。


予定より早くタイソンが戻ってくる。「アクセルは立派に育ってる、ありがとう。オマエらホントよく頑張ってる」長男を労い、もう1人の孫ヴィヴィのダンスリサイタルは必ず行く と約束してアパートを後にする。


今日は慌ただしい。ロングアイランドシティからダウンタウンへ「Sing for Hope」のNYCローンチ開幕式に赴く。Sing for Hopeとは使われていないピアノを集めてアーティストにペイントしてもらい、学校や公共施設に寄付する非営利団体。毎年この時期数週間、ピアノが新居に贈られる前、ニューヨーク中のパブリックスペースで誰もが弾けるようにあちこちに設置される。今年も25台のピアノが一旦ウォール街近くの広場に並べられてイベントが行われ、次の日から各地で弾けるようになる。


開催場所のLiberty Plazaは昨年までマアズが住んでいたアパートの目の前。午後2時過ぎに到着するとナオのピアノ仲間がわぁっと寄ってくる。Sing for Hopeの大使的存在ファビオはサルディニア島出身、ロンドンを拠点に活動していてアフリカにピアノを持っていったりもする、まさに国境のないピアニスト。そして属名「パスポートピアニスト」のランディ。彼は世界中の街角ピアノを弾いて回っている。ジェイコブはまだ小学生、今日学校はないのか?そしてレイナ、日系アメリカン多才ミュージシャン。バイオリン、フルート等いくつもの楽器をこなし、ラップまでやる。お馴染みの顔ぶれがナオを見て大喜び。再会を祝い、どのピアノの音がいいだのいつジャムをやるかだの賑やかに盛り上がる。


今年のピアノはカラフルなモノが多い。「フォレスト・パークに置かれるのはこれだ!」赤、青、黄色が主体にペイントされた「Music Between Us」という名前のピアノがうちの近所の公園に設置される。「朝 緑に囲まれてプレーしたら氣持ちいいだろうな」ナオがうっとりする。


「あれもいい、これもかわいい!」おもちゃ屋に足を踏み入れた子供のように次々と違うピアノに飛び火する姿を追いかけて動画撮影。またしても顔馴染みのダンに「C’mon, let’s play!」と誘われてナオが「No Woman, No Cry」を歌ったり。ここはまるでピアノ中毒者の遊園地。


ナオの人氣は今始まったことではない。プロデューサーとして喜ばしいことだが楽器を弾けないコンプレックスかちょっと疎外感を感じる。「オレとも遊べ」ひと通りピアノを弾いて回った後トライベッカの隠れ家に連れ込み、一刻ほど2匹の雄と雌と化す。



今NBAがおもしろい。今年のプレーオフ、特に西カンファレンス決勝戦の質が例年になく高い。サンアントニオ・スパーズのビクター・ウェンバンヤマは身長224cm、翼幅244cm、背伸びもせずにネットをつかめる長身であるにも関わらずガードのようにファストブレイクをリード、ピタッと止まり3ポイントショットを決めたりする。通称「ウェンビー」、「エイリアン」とも呼ばれている。ちょっと失礼なあだ名だが、彼は地球人とは思えないスキルを世界に披露している。こんな選手は未だかつて見たことがない。スパーズは若いスターが揃ったいいチームで、昨年のチャンピオン、オクラホマ・サンダーに恐れを微塵も見せずに挑んでゆく。


スポーツを見てこんなに熱くなったのは久々。マイケル・ジョーダン以来かな。現役選手が自分より若くなり、年棒が果てしなく上がってゆくにつれて興味が薄れていた。でも世界級、いや宇宙級のパフォーマンスは見逃せない。


サンダーは強い。名前を聞いたこともない選手がここぞという時にシュートを決めて活躍する層の厚いチーム。雷というか波のようにダーっと押し寄せ、氣づいたら10点連発で入れてスパーズを引き離していた、みたいな時がしょっちゅう。どっちがシリーズに勝っても全然おかしくない。


さて東の決勝は地元ニックスがぶっちぎりの連勝中。街はニックス・フィーバーに包まれ、1973年以来、今年こそ優勝だ!と期待されている。試合後マディソンスクエアガーデン前にファンが6千人以上集まってキチガイのように喚いている動画がバズっていたり大変な騒ぎ。


ニックスが優勝すれば街は活氣立つ。人々に元氣を与える。バスケットは行き着くところシュートを決めるかどうか。このままノリにノって点を入れ続ければ…  ただ、プレーオフは一戦ではない。一か八かの一戦総取りならともかく、7ゲームシリーズは大抵優れたチームが勝つ。


オレはファンではない。53年ぶりの快挙もよし、超スーパースター誕生もよし、憎つらしいほど強いチャンピオンの2連覇もよし(いや、それはウソだ。サンダーが優勝したらおもしろくない)。プレッシャーが最高潮に達する大舞台でどんなパフォーマンスをするか、誰がステップアップするか、そこに興味がある。



マイクからDMが来る。「ショーをやる氣はないか?」彼はBrooklyn Music Kitchenで開催されるオープンマイクの主催者。この間のパフォーマンスを氣に入ってくれたらしくイベントでフューチャーしてくれると言う。「もちろん!」そう返すとスタスタと話はまとまり、6月1日にプレーすることが決まった。


「Yessssss!」俄然氣合いが入る。台本を考えなきゃ。MCのセリフもだ。客も呼ばなきゃだ。おぉ、忙しい!そんな時ブリュウに「『Michael』観る?」マイケル・ジャクソンの映画を観に行こうと。なんだかマイクが続くなと思いつつ同意する。最近マアズの面倒やそれにまつわるクウヤの悩みやケンドゥのことで氣が奪われていて末っ子とあまり交流していない。この子は一緒に時間を過ごすことに愛を感じる性格。率先して映画に誘ってくれてとてもうれしかった。


ちょうどいいことに近所の映画館は水曜日チケットが5ドル。「じゃあ明日行こう」ナオも行きたいと言い出し、次の日3人でクィーンズ大通りを渡りキュー・ガーデンズ・シネマへ赴く。


途中裁判所/留置所のある建物を避け、ブリュウがジョイントに火をつける。この子の世代は当たり前のようにフィルターを差してジョイントを巻く。個人的には厚紙の無駄遣いなようで好きじゃない。生分解性がないわけではないが道に捨てるのも忍びないし。


煙が直管でブハッとノドを突き抜け、ズドンとよく効く。ブリュウが通った小学校の横を通り、坂を下ってかなりレロレロ状態で映画館に到着。3人分のチケット代をハミルトンとリンカーンの札で払い、ちょうど今後放映される映画のCMが終わる頃に劇場の中に滑りこむ。


なるほどジャクソン5は親父がプロデュースしたのか、かなりスパルタだったんだな。マイケルの完璧主義は親父の影響か。オレももっと厳しく子育てした方が良かったのかな。でもいくら有名になって成功してくれても家でキリンやチンパンジーを飼われた日にはかなわない。マイケルだけでなく他の子供たちの成功をも願う親父の氣持ちもわかるし。


「彼のストーリーは続く…」なんという絶妙なタイミング。自分を操ろうとする親父から離れ、『スリラー』が爆発的に売れて世界中を風靡したところで映画は突然終わる。やるな、続編があることを匂わせてもっと観たいと思わせる。まるでマイケルのコンサートのような、すべてが緻密に計算された完成度の高い作品だった。


「私もマイケルみたいに大勢の人にキャーキャー言われなきゃダメかな」ナオがつぶやく。それもよ… ストーカーやパパラッチに追いかけられても困るし。「1人でも人をインスパイアできればそれでいいんじゃね?」今は目の前のことに集中すればいい。「とりあえずミュージック・キッチンのショーを盛り上げようぜ」マイケルやウェンビーに比べたらちっぽけなステージかもしれないけどオレたちにとってこのショーはガーデンでプレーするほど大事。今感じている想いをどうしても形にしたい。記録に残したい。


メッセージは広まる。1人ずつ、いずれ世界中に広まる。そう頑なに信じている。真実を抑えることはできない。