「歩き方を見ればわかるだろ、チャラ男だって。音楽にノって女たちが騒いでる、くっちゃべってるヒマはないんだ。生まれた時からやられてたけど…」『Stayin’ Alive』の歌詞を噛み砕いてみる。かなり軽く作ってるな。時代のニュアンスを捉えればそれでいいのか。
「どうでもいい。ぜんぜん構わないよ。見て見ぬフリをすればいいさ。ああ、ニューヨーク・タイムズに感化されちまった…」『Saturday Night Fever』は見たような見てないような。正直なところどんな映画だったかまったく覚えていない。
「ブラザーもマザーも一緒さ、生きてるのには変わりないだろ。街が割れて誰もに響く、なんとか堪えて生き残る…」シンプルな歌詞だ。こんな風に訳してみたけど、受け取り方は聴く人によって違うだろう。
50年前の作品だっつうのに今の社会情勢にピッタリじゃん。昨年のライヴでナオがグッと落として演奏してカッコよかったし。ちょっと言葉を変えてジャジーにアレンジしてニューアルバムに入れよう、そう再決意する。
Spotifyで調べてみると他のアーティストに結構カバーされている。そりゃあそうだよな、あれだけヒットしたんだから。Wyclef Jeanがラップにしていた、『No Woman No Cry』といいずいぶんオイシイどころを取るヤツだ。Lizzoなんて歌詞も変えずにそのままディスコ調で歌ってる。これじゃあほとんどカラオケじゃねーか。
「スプリングスティーンがライブで演ってる、トロンボーンがイイ感じ」「トロンボーン?トランペットでよくね?」とナオ。先週、いや先々週だっけかな、近所のジャマイカ・アートセンターでRoy Hargrove Big Bandを聴いて以来トロンボーンの音が氣になっている。「じゃあ『Shogun & Purple Queen』のイントロに使うのはどうだ、ドラマチックでよくね?」「トロンボーンの人なんて知らないじゃん」出稼ぎの合間、思いつくままアイデアを交わす。
同僚のケガが全治4ヶ月 と予想以上にひどく、もう1人の日本語ガイドは役者業に忙しく只今劇に出演中。人手不足で、10月も半ば過ぎだというのにナオまでしょっちゅう駆り出されている。創作活動以外のことに時間を奪われるのはあまり望ましくないが、このアルバムにはカネを惜しみたくない。トランペットが必要だったらシャリーフに頼む。どうしてもトロンボーンの音が欲しかったら誰か探す。妥協はしない。
よってツアーガイドのギグは断れない。懐がさびしくて弱氣になるくらいなら身体を酷使するのを選ぶ。小金でも、ないとあるとではぜんぜん氣分が違う。
とにかくプライオリティはアルバム制作。これまで生きてきて一番大切な仕事 と言っても過言ではない。持ち得るすべてのエネルギーを注ぐ。このアルバムで人生が変わる。そして世界を変える。
なんて自分を鼓舞していたらマルコからテキストが入る。「明日ナイアガラ、ナオミはDC」マジかよ。連勤が続いて、やっと少し休めるかと思いきやナオまで出動依頼。「了解」クライアントとのやりとりは短い。
カナダへ向かう途中紅葉の濃さが増し、深緑をあらゆる黄色、オレンジ、赤が染めてゆく。木々のトップが丸まっていて、トリムされていないバッズのようだ。ふとバスルームの小皿に残したジョイントの吸いかけが脳裏に浮かぶ。何日前のものだろう、いつのだかすっかり忘れてしまった。
「調子がいい時ばかりじゃない、やるだけやるしかないだろ。シューズに生えた天使の翼、踊ればオレは負け知らず…」『Stayin’ Alive』の翻訳を続ける。ナオが歌うのだから「I’m a singin’ woman and I just can’t lose」に変えよう。
「Life goin’ nowhere, somebody help me…」行き詰まって先が見えない、誰か助けてくれ… 人生に痺れを切らして叫びたくなることってあるよな。特にこんなご時世、のほほんと平氣な顔して生きてるヤツの方がおかしい。
そんな時に聴きたくなる音楽、聴くと元氣になる、ハイになる、そんなアルバムを目指している。「Higher, higher, higher, never been so higher… 今までにないくらい高い高いハイ…」『Stayin’ Alive』の次の曲は『Higher』で決まり。天に向かって2本指を突き立て、空の彼方を仰ぐ。見ててくれ、ヴィ。楽しくなるのはこれからだ。