時々、
「俺寝てないんだよ」なんて
自慢する人いますね。


んで「あーねみぃ」とか
言う。



中学生ならいざ知らず、
大の大人までそんな事を
言う。



返答に窮し、なぜか半笑い
であいまいな相槌打ったり
しますが、何と返事すれば
いいのか。



言い換えれば、

「豆大福出されたけど、
俺、がまんしたんだぜ

涎出たけど」

とか

「むらむら来たけど
鋼の如く張り詰めた
大陸弾道ミサイルに手も
触れなかったんだぜ俺

もう出そうだけど」

と同じことで、聞いている
こっちがきまり悪い。




「すごいね」「大変だね」と
言えない私は、しげしげと
相手の顔を見る。




三大欲求。

食いたい、やりたいを押さ
え一番強烈なのは、寝たい
という欲。



昔、仕事が片付くまで横に
なれない、って事があって
それは波風少ない私の半生
でも少々辛い体験でした。




座業で一日半経過。

トイレ以外はモニターの前。



眠気には波があって、小さ
いのを何度かやり過ごすと
突然大波が音もなく襲い掛
かる。

体が震え甘くなる。



後頭部にスポンジが詰められ、
視界ぎりぎりの所にテレビ
が。

画面の中では小泉今日子が
歌っていて、それを不思議
に思わない。



体が甘くなる、というのは、
全身がびびびと痺れ帯電
する感じ。

座ったまま気持ちいい。



「今すぐ横になったら
もっと良くなるよ」
と、脳が予告編を流す。


しらない人が二三名、私に
質問したりする。

とても明瞭な声で、仕事と
何ら関わりはない。



「あのラーメン屋シャッター
開くの何時だっけ」

「私のリボンどこ?」

「プールに生える藻って
食べられる?」


その一つ一つに声を出して
返事。

周りから心配される。



幻聴が聞こえたら危険信号
だから、やむなく仮眠を
とる。



寝付きの悪い私も枕に頭が
つく前にいびきをかく。


これがたまらない。

体が溶けて眠りの国に流れ
ていく。


数ある快楽の中ぶっちぎり
のホームラン王が睡眠、
我慢し抜いた後の睡眠と
思う。




それほどの悦楽を我慢して
るんだから、「寝てない」人
をねぎらえばいいのに、しない。


なぜか。



それは答えを期待して発さ
れた言葉ではないから。

「眠らない俺はかっこいい
比類なくかっこいい俺
無限大にかっこいい俺」
という己に向けた応援歌、賛辞、

喝采だから。

なまじなねぎらいは逆に
先方の機嫌を損ねる。




昔読んだ本で、「寝てない
んだよね」の反対の言葉を
見つけて、それが忘れられない。



若き五代目古今亭志ん生。

近所の劇作家を訪ねた。



見れば顔はむくみ、目は
腫れぼったい。

「おや、朝帰りですか?」
の問いに、


「へへ、目に借りが
出来ちまって…」
と志ん生。



いったん体と心を切り離し
ていないとこんな事は言え
ません。

深酒したのか、稽古のし過
ぎか、それは判らないけど
実に大人っぽい返答で、
真似してみたい。


「目に借りができて」

いい言葉です。


[ その他 ] 08/03/23 (日)