先日、極東選手権出場のためロシアへ向けて出発するべく成田空港に向かっていた道中のことだった。
高速道路を順調に走行し、もうあと一息の距離で休息をとる為パーキングエリアに寄った。
割とトイレの近くに駐車スペースが空いていたため躊躇なく車を停めた。
その際に近くにいた一台のトラックが気になった。
そのトラックは歩道側に寄せる訳でもなく通路のほぼど真ん中に停車していた。運転手は乗っていた。
(なんてマナーの悪い奴なんだ)
そう思いながらちらっとトラックの運転手の顔を見てからトイレへと急いだ。
運転手は寝ていたように見えた。
およそ1分でトイレから出て、改めてトラックの運転手を凝視。
すると様子がおかしいことに気が付いた。
頭を左右に大きく振り両腕をバタバタと動かしていた。
やがてハンドルを右へ目一杯切ったかと思うと1m弱くらい急発進して急停車。
その瞬間やばいと思って即座に110番通報した。
運転手の様子から、かたや泥酔しているような、かたや危険ドラッグを摂取しているように見えた。
その様子を電話で伝えると、「近づかないとください。」と指示があった。
でもそうこうしているうちにハンドルは先程とは反対側の左に目一杯切った状態に変化してて、挙げ句の果てにはゆっくりバックし始めた。
バックの先にはテラスでお茶をする人々が目についた。
近づくなという指示があったものの、もう限界だと思った。
警察には「とにかく下り○○パーキングエリアに来てっ!」と言い残し猛ダッシュでトラックに突進。
飛び乗りドアを開け、ブレーキを踏みキーを回してエンジンを切った。
それと同時に運転者に声をかける。
「おじさん大丈夫?どうしたの!??」
おじさんは呂律の回らない口調で「ダメ」と一言言った。
この言葉がおじさんと私が交わした意思の疎通ができる最後の会話だった。
MT車だったので急いでサイドブレーキを引き119番通報。
電話口でおじさんの様子を伝えつつ、おじさんに声をかけ続けたが、少し苦しそうに強張った顔つきで「うー」とか「あーー」とかしな言わなかった。
なのに身体は車から出ようとしたり立ちあがろうとしたりと活発に動き続けた。
酒の匂いはしない。
これは一体何が起きたんだろう。
何が何だか全く分からない。
とにかく焦って焦って焦りながらもひたすらおじさんの動きを静止し、119番の応対をした。
5分ほどで救急車が来た。早くてびっくりした。
先に通報した警察より全然早かった。
先に降りてきた救急隊員はおじさんの様子を見て即座に他の2人の救急隊員に「脳麻痺っぽいです!」と声をかける。
の、脳??
私は一瞬そう思ったが、通報者として救急隊員への説明を求められたため応対した。
この対応中に高速隊(警察)から電話があり、説明して欲しいからそこにいてくれとお願いされた。私はロシア出発時間に間に合わないかもと気にしつつも救急隊の処置に釘付けだった。
あっという間に救急車内に運ばれたおじさんはその後どうなったかは分からない。
結果的にギリギリだったけど飛行機も間に合った。
今回の件で私はとても大事な教訓を沢山学んだと思った。
まず初めに特筆したいのは、お医者様ではなくても私たちには救える命が身近にあるのだと思い知った点だ。
今回の件が命に関わる一大事であったかどうかは私には知る由もない。
だけど仮にこれが一大事だとしたら、私の取った行動がおじさんにとって良い行動だっといえることを願ってやまないし、逆に無知過ぎたゆえにもっとあの時おじさんにしてあげられることは沢山あったかもと悔やまれる部分も多くあった。
その後色々調べたら、どうやらあの時のおじさんの様子から脳梗塞が1番当てはまると思った。
救急隊員が言っていた脳麻痺というワードも当てはまる。
これまでの私の中では脳梗塞という病気は、気を失いバタンと急に倒れるような症状だとばかり思っていた。
でも実際は倒れる例もあれば、かなり身体がアクティブに動く場合もあるらしい。
泥酔しているような、悪い薬で幻覚を見て暴れているような動きで一見恐ろしいようにも見える。
でも、これも脳梗塞の症状のひとつなんだと知った今、私は次に同じような場面に遭遇した時、前回よりも早く行動することが出来ると思う。
脳梗塞は時間との勝負らしい。
一刻も早く119番通報をしてあげることが我々に出来る最善の手段の一つであることは間違いないと思った。
あと、無知も怖いけど、無関心がもっと怖いと思い知った。
パーキングエリアは比較的大きく、人も沢山いた。
トラックの10メートル後方にはテラス席があり人も座っていた。
でもあれだけ大声でワーワーやっていても誰1人として助けてくれることはなかったことに、とても驚いた。
私がパーキングエリアに到着した時はすでにおじさんはいた。
何分あの状態だったのかと思うとゾッとする。
今回、この記事を見てくれた人には是非行動して欲しいと思う。
本当におかしいと思ったら、110番や119番通報することは罪じゃない。
むしろ少し様子がおかしいと感じたら積極的に通報するべきだと思った。
女性や子供はなかなか声をかけにくいだろうから、その場合は即座に通報したり近くにいる大人の男に助けを求めるなどして欲しいと思った。
皆さんの周りにも、もしかしたら助けを必要としている人々がいるかもしれません。
私は今後はむしろそういう人たちがいるものだと思って常日頃ボーッとせず行動したいと思う。
様子が変だと思った時に声を掛け合える社会は、巡りめぐって自分や自分の大切な人を守ってくれる大事な仕組みだと感じた。
そしてこの温かい仕組みを、是非スキー界から強く発信しようではないか。
とも思ったりしてます。
おじさんの無事を祈りつつ、極東選手権に挑みます。
湯淺直樹