パリ五輪アジア最終予選がいよいよ開幕 大岩ジャパンを深く知るための5つの焦点

 

22年3月のチーム立ち上げから11回の活動を経て、大岩ジャパンがいよいよパリ五輪アジア最終予選に挑む 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

 パリ五輪男子サッカーの出場権が懸かったU-23アジアカップが4月15日にカタールのドーハで開幕する。日本は1996年のアトランタ五輪から7大会連続してオリンピックに出場中だが、今回はこれまで以上に厳しい戦いが待ち受けている。大岩剛監督率いるU-23日本代表は果たしてパリ行きのチケットをつかみ取れるのか。大岩ジャパンを深く知り、今大会をより楽しむために5つの焦点をまとめた。

【焦点1】U-23アジアカップとはどんな大会?

 

2年前のU-23アジアカップでオーストラリア相手にドリブルを仕掛ける鈴木唯人。この大会で大岩ジャパンは3位に輝いた 【AFC】

 アジアに用意されたパリ行きのチケットは、わずか3.5枚――。

 アジア最終予選で3位までに入ればパリ五輪の出場権を獲得できるが、4位は5月9日にフランスで予定されているアフリカ4位のギニアとのプレーオフに回ることになる。

 ホーム&アウェイで行われるワールドカップの最終予選とは異なり、オリンピックの最終予選はセントラル開催の短期決戦。カタールのドーハで4月15日に開幕するU-23アジアカップが、パリ五輪のアジア最終予選を兼ねている。

 いかに厳しいレギュレーションかは、今年1月に行われたアジアカップを思い返せば分かるだろう。日本代表は優勝候補に挙げられながらベスト8でイランに屈した。これがU-23アジアカップであったなら、5位以下でオリンピックの出場権獲得はならないというわけだ。

 しかも、大岩剛監督率いるU-23日本代表は、中国(4月16日・日本時間22時)、UAE(4月19日・日本時間24時30分)、韓国(4月22日・日本時間22時)と同居する“死のグループ”に組み込まれた。厳しい戦いが待ち受けているのは間違いない。

 16チームが参加するU-23アジアカップは2年に一度、偶数年に開催され、オリンピックイヤーの大会は今回のようにアジア最終予選を兼ねることになる。創設されたのは2014年のことで、その歴史はまだ浅い。

 日本は第1回大会からこれまで全大会に出場してきた。

 14年1月の第1回・オマーン大会は、チームを立ち上げたばかりの手倉森ジャパン(当時のU-21日本代表)の初陣で、イラクに0-1で屈してベスト8で敗退した。

 16年1月の第2回・カタール大会では、準決勝で久保裕也と原川力がゴールを決めてイラクにリベンジを果たしてリオ五輪の出場権を獲得。決勝では韓国に2点を先取されながら、浅野拓磨の2ゴール、矢島慎也のゴールで逆転し、初戴冠を飾った。

 ただし、日本がこの大会を制したのはこの1度だけ。18年1月の第3回・中国大会には始動まもない森保ジャパン(当時のU-21日本代表)が出場したが、準々決勝でウズベキスタンに0-4と大敗して、またしてもベスト8で散った。

 東京五輪のアジア最終予選を兼ねた20年1月の第4回・タイ大会では、日本はすでに開催国として五輪出場を決めていたこと、堂安律、久保建英、冨安健洋、中山雄太といった海外組を招集しなかったこともあり、グループステージ敗退の憂き目に遭っている。

 大岩ジャパン(当時のU-21日本代表)結成3カ月後に臨んだ22年6月の第5回・ウズベキスタン大会では、準決勝で開催国に0-2の完敗を喫したが、3位決定戦で佐藤恵允、OG、藤尾翔太のゴールによってオーストラリアを3-0と下して3位に輝いた。

 それから約2年の強化を経て挑む今大会。ノックアウトステージに進出できるのは各グループ上位2チーム。中国、UAE、韓国と同居するグループBを勝ち抜くと、準々決勝で開催国のカタール、オーストラリア、ヨルダン、インドネシアで構成されるグループAを突破したチームと対戦する。オリンピックの出場権が懸かる準決勝はウズベキスタン、サウジアラビア、イラクあたりとの顔合わせか。いずれも優勝候補の難敵だ。

 決戦の地であるドーハの気温はキックオフ時間の16時や18時半の段階でも30度を超えるため、環境との戦いにもなる。パリへの道は、決して簡単な道のりではない。

【焦点2】大岩ジャパンが歩んできた道のりは?

 

22年11月のポルトガル戦でボール奪取を狙う藤田譲瑠チマ(中央)。チームは同年9月から23年6月の間に4度の欧州遠征を敢行した 【Photo by Gualter Fatia/Getty Images】

 31試合を戦って19勝5分7敗――。これがパリ五輪アジア最終予選を迎えるまでの大岩ジャパンの全成績だ。

 チームが立ち上げられたのは、2022年3月。UAEで開催されたドバイカップU-23に出場し、クロアチア、カタール、サウジアラビアを下して優勝を果たした。

 2回目の活動となった22年6月のU-23アジアカップでも、大岩ジャパンは灼熱のウズベキスタンでたくましさを見せた。UAE、サウジアラビア、タジキスタンと同居したグループステージを2勝1分で首位通過。準々決勝ではイ・ガンイン擁する韓国を鈴木唯人の2ゴール、細谷真大のゴールで3-0と撃破する。準決勝で開催国のウズベキスタンに0-2と敗れたものの、オーストラリアとの3位決定戦を制して銅メダルを持ち帰った。

 22年秋からチーム作りは第2章に入った。9月、11月、23年3月、6月と4回の活動で連続して欧州遠征を敢行。スイス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ドイツ、ベルギー、イングランド、オランダといった強豪と対戦し、2勝3分2敗の成績を収めた。オランダ戦のあと、キャプテンマークを巻く機会の多い山本理仁が「タレントばかりのチームに対して強い塊を作ってしっかり守って、カウンターを繰り出せたのは収穫ですけど、もう少し意図的に崩してゴールに迫る形を作りたい」と振り返るなど、成長と課題を感じる有意義な8連戦となった。

 23年9月には2チームが編成された。9月上旬にU-23アジアカップ予選がバーレーンで、9月半ばからアジア競技大会が中国の杭州で開催されるためだ。U-23アジアカップ予選には大岩ジャパンの主力と目される選手たちが出場したものの、気温40度近い酷暑や劣悪なピッチ状態に苦しめられる。バーレーンとの第3戦ではスコアレスドローを演じたが、2勝1分で本大会出場を決めた。

 一方、アジア競技大会へは大岩ジャパンのサブ組と大学生で構成されたチームで臨んだ。「Bチームと言われて悔しかった。見返してやろうとみんなで話していた」と西川潤が語ったようにメンバーは意地を見せて決勝まで勝ち上がる。U-24韓国代表との決勝では内野航太郎が先制ゴールを奪ったものの、逆転されて銀メダルに終わった。

 10月以降はアジア、ヨーロッパ以外の地域のチームと積極的に対戦した。10月にはアメリカ遠征を敢行。メキシコには細谷の2ゴール、鈴木海音、内野航のゴールで4-1の大勝を飾ったが、アメリカには1-4の大敗を喫してしまう。11月のアルゼンチン戦は、大岩ジャパンにとって初となる国内でのゲームとなった。のちに南米予選を勝ち抜く難敵に、鈴木唯の2ゴール、佐藤恵允、松村優太、福田師王のゴールで5-2と大勝している。

 オリンピックイヤーに入った今年3月には、すでにパリ五輪出場を決めているマリ、ウクライナを招いて強化マッチを行った。マリには1-3と敗れたが、ウクライナには佐藤と田中聡のゴールで2-0と勝利。アジア最終予選前最後の親善試合を白星で締めくくったチームは、4月4日のメンバー発表を経て、4月7日夜に決戦の地に向けて旅立った。

 

【焦点3】大岩ジャパンのこれまでの招集メンバーは?

 

大岩ジャパンのエース・細谷真大はすでにA代表にも選出され、今年1月のアジアカップに出場。「A代表経由・パリ五輪行き」への道を突き進む 【Photo by Fantasista/Getty Images】

 これまでの約2年間の活動で、大岩ジャパンには61名の選手が招集されてきた。

 初陣となった2022年3月のドバイカップU-23で優勝に貢献したのは藤田譲瑠チマ、鈴木唯人、細谷真大、山本理仁、鈴木彩艶、半田陸、斉藤光毅といった選手たち。彼らは3カ月後のU-23アジアカップでも主力として起用され、銅メダル獲得の原動力となった。

 22年7月には細谷、藤田、鈴木彩の3人が森保ジャパンに選出され、日本で開催されたE-1選手権に出場する。国内組限定のメンバー構成だったが、大岩ジャパンのスローガンである「A代表経由・パリ五輪行き」の一歩をまずはこの3人が踏み出した。

 22年9月から23年6月にわたる4度の欧州遠征では、所属クラブでレギュラーを張る選手たちが頭角を現す。その代表格が川崎颯太や三戸舜介だ。ドバイカップに出場したものの、U-23アジアカップのメンバーから落選した川崎は、所属する京都サンガF.C.でポジションを確保し、9月のスペイン・イタリア遠征で代表復帰。それ以降、代表チームにおける存在感を増していく。

 J2時代のアルビレックス新潟でポジションを掴んだ三戸も、昇格したJ1で自信をつけていく。代表チームではウイングとインサイドハーフをこなす攻撃のユーティリティとして、欠かせぬ存在となっていった。

 23年9月以降に台頭してきたのが、年下の世代の選手たちだ。5〜6月のU-20ワールドカップを終えて、いよいよ下の世代からの突き上げが始まった。9月のU-23アジアカップ予選では松木玖生と高井幸大が、10月のアメリカ遠征ではチェイス・アンリ、福井太智、木村凌也が昇格を果たす。松木とチェイスは前年6月のU-23アジアカップのメンバーに選ばれていたから、正確に言えば復帰だが、松木はここからコンスタントに起用され、主軸を担うようになる。

 9月半ばに開幕したアジア競技大会で存在感を示したのは、佐藤恵允と内野航太郎だ。明治大学の学生だった佐藤は大岩ジャパンの初期から招集されてきた選手で、23年夏にドイツのブレーメンへ加入。アジア競技大会では左ウイングに入って2ゴールを奪うと、11月のアルゼンチン戦、今年3月のウクライナ戦でもゴールを決めた。筑波大学の1年生だった内野はアジア競技大会で4ゴールを奪ってブレイクすると10月のアメリカ遠征で追加招集され、メキシコ戦でゴールを奪ってみせた。

 オリンピックイヤーに突入した今年3月のマリ戦、ウクライナ戦では、Jリーグで好パフォーマンスを披露する選手たちが久しぶりにチャンスを得た。荒木遼太郎や染野唯月がそれにあたる。

 初陣となったドバイカップに参加後、所属する鹿島アントラーズで出場時間を減らして代表チームから遠ざかっていた荒木は、今季に入ってFC東京で復活を遂げ、目前に迫ったパリ五輪アジア最終予選に向けた“救世主”として2年ぶりに招集された。22年11月のスペイン・ポルトガル遠征以来1年半ぶりの招集となった染野は、鹿島から期限付き移籍をした東京ヴェルディでエースとしてJ1昇格に貢献。今季も好調を維持しているため、代表復帰のチャンスを手繰り寄せた。

【焦点4】大岩ジャパンの戦術・布陣・強みとは?

 

熱血指導でチームに戦術とタフさを植え付けてきた大岩監督。鹿島監督時代にACLを制した経験を今大会で活かせるか 【Photo by Noushad Thekkayil/NurPhoto via Getty Images】

 ボールとスペースを支配するサッカー――。やや乱暴だが、大岩ジャパンのスタイルをひと言で表すとこうなるだろう。

 昨年11月、国内で初めての代表活動となるアルゼンチン戦を前にして、大岩剛監督は国内のファン・サポーターにチームのスタイルをこんなふうにアピールした。

「ボールを奪ったらまずはゴールを狙う。それが難しければ、ボールを意図的に動かしながら、狙うべきポジションに入っていく。ボールを奪われてもすぐさまボールを奪い返せるように、自分たちがスペースをしっかり認識し、ミドルゾーンでアグレッシブに相手を陥れていく。相手が攻撃をビルドアップする際には、ハイプレッシャーも仕掛けていきます。そうした攻撃的な姿勢を見ていただきたい」

 主戦システムはアンカーを置いた4-3-3。ただし、試合中にアンカーの藤田譲瑠チマがサリーダ・ラボルピアーナ(最終ラインに落ちてビルドアップを助ける動き)をしたり、右サイドバックの半田陸がインサイドに潜り込んだり、相手や戦況に応じて4-2-3-1や4-4-2、あるいは3バックに変更する柔軟性や対応力も併せ持つ。

 22年6月にウズベキスタンで開催されたU-23アジアカップのサウジアラビア戦では、藤田と山本理仁を2ボランチ、細谷真大と藤尾翔太を2トップに据えた4-4-2でスタート。ビルドアップの際に藤田が左センターバックと左サイドバックの間に落ちてかりそめの3バックと化し、相手の2トップによるファーストプレスを回避してボールを前進させた。

 23年3月のベルギー戦では3-4-2-1の相手にかみ合わせのミスマッチを突かれると、後半に入ってFC東京のセンターバック・木村誠二を送り出して3-4-2-1に変更。ベルギーが4-3-3に変えてくると、藤田が「4-3-3だぞ!」と叫び、3-4-1-2にシフトチェンジして相手のセンターバックとアンカーを封じにいった。

 一方で、こうした戦術的な対応力を前半のうちから発揮できず、後半に入ってようやく盛り返す傾向があったのも確か。昨年6月のイングランド・オーストリア遠征で藤田は「修正力や対応力は、みんなも強みだと感じていると思いますけど、前半から相手の嫌なところを見つけて、勝負を決める力を付けないといけない」と語っていた。

 また、戦術的な駆け引きには自信があっても、ロングボールを多用したり、堅守速攻に特化したり、強引に仕掛けてきたりする相手に対して苦手意識があるのも事実だ。1-4の完敗を喫した昨年10月のアメリカ戦後、山本は課題を明確にした。

「欧州勢はシステマチックにやってくるから、いい意味で意外性がないというか。僕らがやりたいことを相手もやってくるし、僕らが動かしたいように動いてくれることがあるんで、やりやすい。ただ、オリンピックでは、こういう相手(アメリカ)とも対戦するし、その前には最終予選もある。どんな相手に対してもアジャストしていく力をつけないといけない」

 実際、アメリカ戦のひと月前に敵地で行われたバーレーン戦でも、守備を固めてカウンターを繰り出してきた相手を攻めあぐね、スコアレスドローに終わっている。

 U-23アジアカップは猛暑のカタールでのゲーム。オリンピックの出場権を懸けて、相手はなりふり構わぬサッカーで日本に一泡吹かせにくるはずだ。ボールとスペースを思うように支配できない場合の戦い方が問われることになりそうだ。