このお話は、2014年、おかか28歳長男マオ9歳、次男シキ4歳で、三男サクちゃんを出産した時のお話です★

 

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2014年7月17日

サクちゃん生後15日目

 

朝の授乳の時間、直母の練習の為にいつも通り下を向いたら、この世の終わりのような頭痛に襲われたおかかは

 

「あぁ、やっぱり無理なんだ。」

 

と、確信しました。

 

 

おっぱいが痣だらけになっても絞り続けるのを辞めず、この先には夢のような母乳育児の日があるのだと信じていました。

 

乳首の皮がズル剥けになっても、血が出ても、この先には憧れの母乳育児の日々があるのだと信じていました。

 

 

ですが、この視界まで点滅させる言うな頭痛に襲われると、じっと座っている事さえ出来ませんでした。

 

脳みそがお寺の鐘になったみたいに、ゴンゴンゴンゴンと高速で鳴り続け、激しく振動し、激痛を生み出します。

 

 

「身体が、限界だと言っているんだ・・・。」

 

そう思いました。

 

 

心は、もうとっくに限界で、マオとシキちゃんをちゃんと見れていないという不安が常にあり、二人の事が心配で心配で仕方ないのに、うまく伝えることが出来ないばかりか、怒鳴りつけてしまう自分に絶望。

 

こちらの状況を察してくれない義両親に怒りと絶望。

 

母乳育児を「みんなやればできること」だと思っているマーシーに絶望。

 

そして、何より、誰にも優しくできず、家事も出来ず、お金も沢山使って、全ての時間と、頭を母乳育児に向けているのに、全く上手くいかない自分に絶望。

 

 

 

 

 

沢山のモノを犠牲にしているのに何一つ上手に出来ないから、死にたい。消えたいと思ってしまいました。

 

 

それでも、それでも、辞められなかった、辞めたくなかった直母の練習を、身体が「いや、もう無理だよ。」と、自らの痛みで、教えてくれたのだと思いました。

 

 

このような頭痛に襲われては、赤ちゃんのお世話どころか、自分の日常生活すら成立しません。

 

 

 

――――――私は、この事態をずっと望んでいたのかもしれません。

 

 

 

「まだまだ続けたいけれど、頭痛がするから仕方なく辞めたんだ。」と、母乳育児への挑戦を〝不本意ながら辞めた〟という理由が、欲しかったのです。

 

 

自分を、そして周りを納得させるために・・・。

 

 

 

 

 

 

リビングのテレビの上の掛け時計を見上げて、時間を確認し、私は携帯に手を伸ばしました。

 

 

〝モモ母乳相談室〟に電話をかけます。

 

 

プルプルプル・・・という呼び出し音が鳴っている間、私の心臓の音も、呼び出し音と同じくらい大きく響いていました。

 

「これで本当に終わる。これで本当に終わる。」

 

 

この勢いのままに行動しないと、また心が揺らいでしまうのが目に見えています。

 

 

 

 

 

 

モモ先生の母乳相談室はとても人気でキャンセル待ちのママも沢山いるのです。

 

だから、早めに・・・・。

 

 

ガチャっとコールが途切れて

 

「はーい!モモ母乳相談室でーす!」と言う明るい声が電話の向こうから響きました。

 

 

電話に出たのは、助手の方では無く、モモ先生本人でした。

 

 

私は、ぐっと喉に力を込めて、努めて明るく、そしてゆっくりと平静を装う事に意識を向けて、話し始めました。

 

 

 

「あの・・・。お世話になります。今日の●●時に予約を入れさせてもらっているおかかですが・・・。」

 

 

携帯を持つ手が震えて、喉がきゅー--っときつく感じます。

 

 

「あらおかかさん!どう?順調?何かあった?」

 

 

はつらつとしていて、心強くて、優しいモモ先生の言葉が、胸をキュー――と締め付けます。

 

 

「あの実は・・・。頭痛が酷くて・・・調子が悪いので、今日の予約をキャンセルさせてもらいたいのですが・・・。」

 

おかかが言うと、モモ先生は

 

 

「え?頭痛!?それは無理しない方がいいわね。大丈夫?頼りになる人はいる?」

 

 

と心配そうに尋ねてくれました。

 

 

「大丈夫です。すぐ隣にお義母さんが居るので。」

 

「そう。それなら良かった!じゃあ今日はキャンセルにしておきますね。どうする?今、次の予約の日を今決める?」

 

「・・・・・・。」

 

 

「次の予約の日」というモモ先生の言葉に、また心臓がぎゅー--っとなりました。

 

 

――――私は今からモモ先生に嘘をつく。

 

 

頭痛は嘘ではありません。本当に、こんな頭痛では母乳相談室までサクちゃんを連れて車を運転していくのは不可能です。

 

でも、その後は嘘になります。

 

 

「あの・・・。またスケジュールを確認してから、改めて行ける日をご連絡します。」

 

 

 

〝次に予約は改めて連絡する〟と言うおかかに、モモ先生は特に異変に気付いた様子もなく、優しい声で答えました。

 

 

「わかったわ。今日はゆっくり休んでね。じゃあ、ご連絡お待ちしてますね。お大事にね。」

 

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 

これが、モモ先生との最後のい会話になります。

 

 

「失礼します。」

 

「はーい!失礼しまーす!お大事に~!」

 

 

モモ先生は最後まで、ハツラツとしていて、明るい声で電話を切りました。

 

私はスマホをベッドに放り投げて、授乳枕に顔を埋めて泣きました。

 

 

もっともっと、モモ先生に会いたかったです。

 

もっともっと、おかかのおっぱいとサクちゃんの成長を見ていて欲しかったです。

 

モモ先生のお陰で出来るようになった!と笑顔で言いたかったです。

 

母乳育児を成功させて、サクちゃんが大きく育った時にモモ先生の手から卒乳証書を受け取るのを夢に見ていました・・・・。

 

 

 

―――――この、誰にも理解されないおかかかと母乳との闘いの中で、唯一にして最強の味方だったモモ先生の元から、逃げるように去るしかない状況がとても悲しいです。

 

 

 

 

私はモモ先生に嘘をつきました。「次の予約」の連絡をすることはありません。

 

 

何故なら、モモ先生に会ったらまた、「やっぱり母乳辞めたくない。」と思ってしまうからです。

 

だから、この決断は間違いじゃない!と、自分に言い聞かせました。

 

 

 

 

涙でぼやけた視界で、自分の周りを見回すと、

 

そこには、マオにミルクを飲ませてもらって満足そうに眠るサクちゃんが居て。

 

ビーズクッションに寄っかかってゲームに夢中なマオが居て。

 

そしてプラレールのトーマスシリーズをひたすら並べて遊ぶシキちゃんが居ます。

 

 

 

 

人生の幸せがぎゅー------っと詰まった様な空間におかかは居ます。

 

サクちゃんを出産してからずっとずっと、おかかはこ空間に居たのに・・・。

 

この幸せを感じれない程、不幸な事は無いと、やっとやっと気づいたのです。

 

 

 

おかかは、母乳育児に挑戦しながら、目の前の幸せをかみしめることが出来ませんでした。両方同時に・・・は、無理だったのです。

 

 

 

 

母乳育児より、大切なものは、常に目の前にありました。

 

死ぬなんて、消えるなんて、とんでも無い事です。

 

 

 

 

おかかは立ち上がり、テーブルの上にある手動の搾乳機と、乳頭保護器を掴み、のそのそとキッチンに向かい、そしてキッチンの置いてある大きなゴミ箱に捨てました。

 

 

毎日毎日、何度も何度も使って、丁寧に洗って、消毒した、搾乳機と、乳頭保護器です。

 

 

ゴミ箱の蓋を閉めて、また泣きました。

 

「ありがとう。ありがとう。」と、言いながら泣きました。

 

 

 

そして2ヶ月のレンタルをしている電動搾乳機を、箱の中に戻しました。

 

 

その途中で、キッチンの棚に置いてある〝タンポポ茶の袋〟も、手に取り、紙袋に入れました。

 

 

ずっと使うから♪と思って沢山買っていた母乳パッドも、同じ紙袋に入れました。

 

 

母乳育児をしているお友達にあげるためです。

 

 

その他、母乳育児に関する全てのモノを目の届く場所から排除し、ベビースケールだけを残しました。

 

 

ここまでしないと、私はきっと、また「やっぱり辞めたくない。」と思ってしまうからです。

 

 

 

グスグスと泣きながら、母乳関連のモノを片付けると、徐々に心が軽くなるのを感じました。

 

 

もう、私は母乳に縛られない。

 

悲しさ、悔しさ、痛み、情けなさから解放されて、目の前の、とても可愛くて、とてもかけがえのない幸せに向き合うことが出来る。

 

 

これは、とても良い事に向けての、今までの自分との別れの儀式なのです!

 

 

 

もう何も辛くない、苦しくない。

 

サクちゃんが生まれてからふさぎ込んで過ごしてしまった15日間を今から取り戻すんだ!

 

――――と、おかかは涙を拭いて、リビングに戻りました。

 

 

 

 

 

 

次回へつづく★お楽しみに

 

 

 

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最後まで読んでいただきありがとうございます★

次回も是非、読んでやってくださーい♪   

 

★おかか★

 

 

 

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