このお話は2014年、おかか28歳、長男マオ9歳、次男シキ4歳で、三男サクちゃんを出産した時のお話です★
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2004年7月16日
サクちゃん生後14日目の夜
と、気付いて
消えてしまいたいと思いました。
もう、『今』から解放されたい。消えたい。
それなら、死ぬしかない。
そう思いました。
でも、生まれたばかりのサクちゃんと、今までずっとずっと大切に育てて来たマオとシキちゃんを置いては行けません。
でも、もう逃げたい、消えたい、死にたい・・・・・。
どうすればよいのでしょうか?
そのへん、何とかならないのでしょうか?
何か不思議な力が、不思議な事を起こして、家族だけで、暖かくて安全で苦しみのない世界に行けたりしないだろうか・・・。
考えながら、頬を伝う涙。
常夜灯だけがついた夜のリビングで、サクちゃんの微かな呼吸の音と、おかかの涙が頬から耳元へ伝って、枕に落ちていく音だけが聞こえていました。
『今』から逃げたい。消えたい。
子供たちと、苦しみのない世界に行きたい。
目が覚めたら、そんな世界に変わっていますように・・・。
そう何度も何度も何度も祈りながら、おかかは眠りに落ちていきました。
それから、何が起こったのか・・・・。
おかかは、今まで経験したことが無い、表現のしようが無いほどの〝心地よさ〟を感じ、ゆっくりと目を開けました。
するとおかかは、とても不思議で、とても奇麗な〝青い〟世界に居ました。
足元から、ずー----っと向こうまで海が続いていて。
遮るものは何もなく、視界いっぱいに広がる空と海がずっと遠くで境目を曖昧にしていました。
なんだこれは。
なんて綺麗なんだろうか。
今まで生きて来た中で、こんなに奇麗な海を、奇麗な空を見たことがあっただろうか・・・・。
今まで経験した事のない、心地良さと、暖かさ、そしてこの空間全てが、また言葉にしようのない安心感で包まれていました。
そして、身体の感覚は確かにあるのに、身体の重さを全く感じません。
遠くの、空と海の間から吹き抜けてくる心地よい風が、身体をすり抜けていきます。
身体はもう、何も痛くなくて、重くなくて、疲れてもいません。
ふわふわと軽くて、まるで宙に浮いているようで、少し強い風が吹くと、ふわっと風に乗って飛ばされてしまいそうです。
―――――――――『私は、何か辛いことがあった気がする・・・・・。』
そう思いましたが、あまりにも空と海が奇麗で、身体が軽くて、心地良いので、思い出すことが出来ません。
『まぁいいかぁ・・・・こんなに気持ちが良いのだから・・・・。』
と、思考を手放し、吹く風に身を任せようとして、そこでおかかは、自分が〝誰か〟におぶられていることに気が付きました。
おかかをおぶっている人は、髪の毛をふわふわと揺らし、白い襟のあるシャツを着て、ぽーんぽーんととても軽快に弾んでいます。
おかかをおぶっている人からは、すごく懐かしい、いい匂いがして、おかかは瞬時に彼がマーシーだと解りました。
マーシーは襟のついた白いシャツなんて着ないし、おかかをおぶったりはしません。
けれど、全てがマーシーでした。
『マーシー。』
名前を呼びましたが、マーシーは振り向きません。
でも何故か、前を向いたままのマーシーが微笑んでいるのが解るのです。
マーシーは何故かずっと前を向いたまま、海の上に、一本だけある幅10cm
程の道?らしきモノの上を、ぽーんぽーんとジャンプしながら前へと進みます。
まるでトランポリンの上で飛んでいるかのように、高く飛び、そしてゆっくりと落ちていきます。
『マーシー。』
もう一度、マーシーの名前を呼ぶと、急に涙が溢れて来ました。
―――――――この時、ハッと全てが解った気がしました。
マーシーは、私の母であり、父であり、兄弟であり、友達だった・・・・。という事。
『あぁ、だからオカンじゃないのか・・・・。』
驚きはしましたが、妙に納得ができました。
そして今、私はマーシーと、苦しみのない、世界に居ます。
そして、ここで子供もたちの事を思い出しました。
でも、
『大丈夫。全部、大丈夫。』
前を向いたままのマーシーと、そして私たちを包むこの世界の全てが、そう言っているような気がしました。
『そうか。なら大丈夫かぁ・・・・。』
不安な気持ちが、少しも生まれて来ませんでした。
マーシーが道を蹴って高く飛び上がる度に、おかかの身体はふわりと宙に舞い、そのまま風に乗って空へと飛んで行ってしまいそうなので、実態があるのかないのかよくわからない腕で、マーシー首元にしがみつきます。
マーシーの身体も、実態があるのか無いのか曖昧でとても軽く、一度地面を蹴る度に10mくらい高く飛び上がり、前に進み、そしてふわふわと落ちていきます。
なんて、理想的な世界なんだろうか。
身体の重みも痛みも苦しみも疲れも無い。
ただひたすらに、心地よく、懐かしい、奇麗な世界。
優しい世界。
何一つ、不安のない世界。
まるで赤ちゃんに戻って、大きな手に包まれてるみたいでした。
だんだんと、この世界が本来の自分がいた世界で、子供たちと居た世界が夢だったような感覚を感じ始めました。
『あの子たち、可愛かったなぁ・・・・幸せだったなぁ・・・・。
またいつかどこかで会えたらいいなぁ・・・・・。』
寂しさは一かけらもなく、とても暖かく、とても穏やかで、純粋な気持ちでそう思いました。
ところで、マーシーは一体どこに向かって進んでいるのか。
ふと疑問が生まれて、
まぁ、どこでもいいかぁ・・・。と
心地よさに身を委ねます。
でも、マーシーがぽーんぽーんと、飛び上がる度に、少しずつ、ソワソワっと小さな恐怖心が生まれて来ました。
こんなに細い道?を、よく前を向いたまま飛べるなぁ・・・なんて思いながら、足元の海にスッと一本だけ続く道?に目線をやると
次の次にマーシーが着地すると思われる場所の前で、その道?が終わっていることに気が付きました。
大丈夫なのかな・・・・?恐怖心が大きく膨らみます。
それなのにマーシーは何も気にすることなく、道を蹴って思いっきり飛び上がりました。
道?が無くなったところは何も無い、絶対に深そうな海です。
『えっ・・・!落ちるよ!?』
おかかが叫ぶと、マーシーが何か言いました。
―――――――でも、何と言ったのか分かりませんでした。
『ぎゃー------!!!!落ちるー-----!!』
高く飛び上がったマーシーは、そのまま海に向かって急降下していきます
『まだここに居たいのに・・・・・っ!!待って・・・!!!』
おかかは絶叫しながら、海の中に落ちて行きました。
そして、
頭を金槌で殴られているような痛みで、おかかは目を覚ましました。
先ほどまで居たあの夢のような世界は、・・・・・夢だったのです。
ガーンガーンと、頭の中で金が鳴り、脳が揺れています。
まるで頭の中で、お寺にあるような大きい金を誰かが鳴らし続けているみたいです。
目の前がチカチカして、声が出ません。
「痛い痛い痛い・・・。助けて・・・・。」一生懸命声を出そうとしているのに、何故が声になりません。
金の音は脳みそを揺らし、視界を揺らし、強烈な痛みを起こします。
「マーシー・・・助けて・・・・。」
ゴンゴンとなり続ける頭の中の金のせいで、全身が痺れて動きません。
「でも助けて痛いぃぃぃぃぃぃ・・・!!」
今まで経験した事のない頭痛に襲われ、あまりの痛さにまた涙がボッタボッタとあふれ出し、身体が震えていました。
「死ぬ!!頭痛で死ぬ!!」
本気で命の危機を感じ、おかかは、やっと少し動かせる様になった腕で、傍にあるはずの携帯電話を探しました。
奇跡的に携帯電話に手が触れ、見つけることができ、痛みで目を開けることができないまま必死に操作し、二階の寝室に寝ているマーシーに電話をかけました。
しばらくコールが鳴った後、『はい・・・・・。』と、とてもとても眠そうなマーシーが出ました。
『助けて・・・・死ぬ・・・・』
そう、声を絞り出すのが精いっぱいでした。
マーシーが二階から降りてきて、何事かと尋ねます。
しかしおかかは起き上がる事が出来ず
痛みに耐えながら、『薬・・・・頭痛の薬・・・・・。』と、訴えました。
なんだ。頭痛かよ。と言った感じでマーシーは眠そうに薬箱を漁り、おかかの枕元にコップに入ったお水と頭痛薬を置いて、再び二階へと戻って行きました。
おかかは天気や、顎関節や、寝不足のあれやこれやで度々頭痛を起こすので、マーシーにとっては『頭痛ぐらいで起こすなよ。』といった感じだったのだと思います。
―――――しかし、今回は違うのです。
本当に、頭が割れるほどの痛みが、ガンガンガンガンと絶え間なく続き、目を開けることも、身体を起こすことも出来ないのです。
おかかは、ゆっくりゆっくりと身を捩り、何とか頭痛薬を飲み込みました。
『早く薬が効きますように!早く薬が効きますように!』
頭の中の事は詳しく分かりませんが、このままだと血管が切れて本当に死んでしまう!!と思いました。
そして、おかかはあまりの痛みに気を失ったのか、薬が効いて来て眠れたのか、そこで記憶は終わっています。
生れてきて今まで一度も経験した事が無いほどの心地よい世界に行ったり。
その世界から落ちたかと思ったら、今度は今まで一度も経験した事の無いレベルの頭痛に襲われたりで・・・・。
一晩で、天国と地獄を味わった様な感じでした。
――――――そして次の授乳時間になり、おかかは目を覚ますのですが・・・・・。
次回に続きます★
お楽しみに♪
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最後まで読んでいただきありがとうございます★
次回も是非、読んでやってくださーい♪
★おかか★
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