ミラー! (672)観閲式
観閲式当日。何とかお父さんに無理いって、家族全員分の入場券を準備してもらう。もうこういう行事には参加しないと思うし、子供たちにも見て欲しいと思ったから。滅多に元防衛大臣で元総理大臣であったお父さんのコネを使ってこういうことはしないけれど、今回はお父さんもそのほうがいいねと言ってすぐに手配してくれたのだ。
この日のために、綺麗に洗車された車体。そして部下たちの装備も丁寧に仕上げてあった。車両パレードしか出ないので楽でいい。時間が来るまで、裏で待つ。表ではお偉いさんの長い言葉。防医大の時はじっと動かないように聞いていた。当時は学生隊の小隊長だったから、所属隊の先頭でとても緊張したっけ…。そんなことを考えながら、時間を潰していた。パレードの時間がやってきて、定位置につく。中央即応集団の次。僕は小型トラックの助手席。後ろには隊旗を持った部下。
「遠藤3佐。先週みたいに体勢を崩さないようにお願いしますよ。」
と、笑って話す旗手。
「三木君の運転次第だよね。」
と言って和む。
さて出番がやってきた。祝典ギャロップの曲に合わせて、車両を進める。アナウンスで、部隊編制とこの前の災害派遣の紹介がある。現総理大臣たちの前あたりで、僕の名前が呼ばれる。
「指揮官は、遠藤春希3等陸佐です。」
そのアナウンスと同時に敬礼の号令をかけ、僕は観閲台へ向かって敬礼をする。今回は体勢を崩さずに何とか出番を終え、車両を定位置へ停める。何とかすべてのパレードが終わる。
パレードが終わり、後片付けのあと、車両の一般展示があるけれど、僕は一応自由。あとを部下たちに任せて、家族と待ち合わせ。
「パパ!」
と、僕の姿を見るなり、走ってくる未来と美紅。この前自宅へ戻ったといっても少ししか一緒にいることができなかったからね。
「やっぱり、パパってかっこいい!!!」
と、パレードを見て思ったのか、目を輝かせている未来。僕は3人の子供たちの頭をなでて、笑う。この前会うことができなかった優希。本当に久しぶり。夏休み以来かな?ずいぶん背が高くなって、160センチくらいあるみたい。もう5年生だしねえ…。僕と亡くなった優奈のいいところばかり似た親ばかかもしれないけれど、顔はいいほうだと思う。すらっとモデル体型。もっと背が伸びるんだとうなあと思う。
もちろん未来も、幼稚園年長さんにしては背が大きい。1年生?いや2年生に見えるくらい大きくて、さすが僕と美里の子だね。僕も美里も身長は平均以上。顔も二人のいいところを貰っているけれど、どっちかというとこの僕に似てきたと思う。
美紅は母親に似たのか結構小さい。結構優奈は小さかったし…。美紅はほんと優奈の小さいころに瓜二つで、優奈がそこにいるみたい。
「パパ、この前言えなかったけれど、海外派遣、お疲れ様。」
え?優希の口からこんな言葉が出るとは思わなかった。前回の時は、優奈が亡くなってすぐだったのか、口も利かないくらい黙り込んでいた。
「僕はパパが誇らしいと思うよ。この前ね、学校で社会の発表があってね、僕はパパの仕事について調べて発表したんだ。お爺ちゃんに聞いたり、新聞で調べたり、インターネットで調べたりしてね、すごくパパは人のために頑張っているんだなって思ったんだ。それも、この前は日本で一番初めに行ったんでしょ?先生もたくさん褒めてくれたし、クラスの子たちも、驚いてたよ。いつもみんなのために頑張ってくれてありがとう。僕もパパみたいな仕事がしたいな。人のためになる仕事がしたいな。」
と言ってこの僕に抱きついた。僕はこんな言葉が優希から聞けると思わなくてつい感動してしまって泣いていた。