ミラー!(664)帰宅
家族と別れ、やっと戻ってきた駐屯地。手の空いた隊員たちに出迎えられる。衛生隊建物の前で、バスから降り、整列。そしてこの僕から、一言部下たちに伝え、疲れているけれど、各持ち場の整理を命令する。
駐屯地内は10日後に行われる記念祭の準備で忙しい。あちこちの部隊が、記念祭の式典へ向けて行進練習などを行っている。もちろん上から医療派遣部隊も出るように命令があった。その件を伝えた時、部下たちは嫌がっていた。せっかくの休みがつぶれるんだもの。あ、言っておくけど、出るのは車両の観閲行進のみだからというと、「意地悪!」と笑われる。そう、出るのはこの僕と准尉、車両・輸送班のみ。この僕以外の医官と看護師、技官は関係ない。
「あのさ…その次の週の自衛隊観閲式にも出て欲しいとか…。」
もちろん輸送班は「え!」っていうわけ。本来であれば、東方隊の衛生派遣部隊が出る予定だったんだけど、今派遣中。他の方面隊でいいものを、ちょうど帰ってきたからと出るようにとのご命令。こっちの記念祭が終わった次の日、朝霞駐屯地へ向かわなければならない…。ほんと休んでいる暇はない。とりあえず10月いっぱいは忙しいってことだ。
部下たちが片付けをしている間に僕は報告書類の整理。体が疲れているからか、眠気に襲われる。ウトウトしながら、パソコンに向かっていた。
「遠藤君、疲れているだろうから、定時に帰ったらいいよ。」
と、衛生隊隊長に言われる。
「しかし、部下の者たちはまだ仕事していますし…。」
「初めての隊長職で疲れたろう…。いいから帰りなさい。」
「はい…お言葉に甘えて…。」
といって、僕は帰宅準備をする。帰宅前に部下たちのところへ。ある程度片づけが済んでいたので、そろそろ切り上げて終了するように伝える。
滅多に定時帰宅しないこの僕。いつも何かしら残業で遅いときには日をまたぐこともある。定時帰宅でありながらどっと来た疲れでフラフラになりながらなんとか自宅へ到着。玄関先の電燈に電気がついている。そして鍵も空いている。美里?
「ただいま…。」
とそっとドアを開けるとやはり美里。
「おかえりなさい!」
と、エプロン姿の美里が、出迎えてくれた。
「思ったよりも早く帰れたのね。」
「うん…。隊長がさ、疲れているだろうから、早く帰れって。」
「よかった…。」
と言ってこの僕の胸へ体を預ける。そして僕は美里をぎゅっと抱きしめる。
「改めて、ただいま。」
「おかえりなさい…。」
と、キスを交わす。ほんの少しの時間が、なんかすごく長い時間に感じられた。