ミラー! (655)移動中
長旅とはいえないかもしれないけれど、はじめていくグアム。といっても旅行じゃなく仕事だ。グアム滞在時間は数時間。すぐに被災地へ向かわなければならない。地震による災害。行ってみないとわからないのが現状だ。
僕は機内食をさっと食べると、できるだけ体を休めるようにした。現地へ入ると休んでいる暇がないかもしれないからだ。気の知れた者たちとの緊急医療援助派遣。できるだけ今のうちに身も心も休めておかないとね。
「そういや、遠藤3佐。」
「ん?」
「奥さん最近おめでた発表したところですよね?」
そういやそうだね。1週間前かな?妊娠3カ月の記者会見。もちろん例の雑誌の企画記者会見も兼ねて…。
「大丈夫だよ。大丈夫。」
「余裕ですね。」
余裕?そんなことないよ。もちろん心配。半年とかいう長期じゃないけど、まだまだ不安定な時期に傍にいてやれない。そして何かあった時に飛んで行けない距離だもの。
「そういや3佐と奥さんの初めてのお子さんですよね?」
「え?」
あ、世間ではそういうことになっているよね。未来は僕の子ではないことになっている。戸籍は僕の子供なんだけど…。ま、ちゃんと愛しあって初めてできた子であることは間違いないけど…。
僕はため息をついて目を閉じる。部隊の中には、先日結婚したばかりの奴がいたり、半月後に入籍予定の奴がいたり、そしてもうすぐ奥さんが出産するというやつもいる。そう思うと僕だけが複雑な心境ではないことは確かだ。だからこそ、この僕がしっかりしないといけないくらいわかっている。わかっているとも…。特に僕は各方面隊内の医療派遣部隊長の中でも一番若い。そして部下たちも若手ばかり。もちろん腕は確かなものばかり。医官の中にはまあ、部隊研修中のものもいるけれどね。
はあ…ほんと緊張する。はじめて僕は隊長職を任じられた。この前のような演習じゃない。
先日大叔父さんに言われたことが思い浮かんだ。これ以上の出世はないと思えと言われたようなものだろう。だって指揮幕僚課程に100%進めないと言われたんだから。この派遣が終わったら…退官へ向けて準備を進めるかな…。退官か…。退官したら何がしたいんだろう。やはりお父さんの事務所へ入って修行?いまさらね。大学病院へ行くかな?博士課程?将来代議士目指さないといけないのなら博士なんていらない。僕はこの仕事が好き。医師の仕事が好き。これ以上自衛隊にいたら医師の仕事ができないと言われたら…。
なんかいろいろ考えているうちに眠ってしまっていた。そして気がつくと到着30分前だった。