ミラー! (654)派遣
現地への人員のみの輸送手段の確保ができ、とりあえず医官や看護師等の人員のみ即派遣。簡単な壮行会が執り行われ、総監からの言葉を聞き、即用意されたバスで一路関西国際空港へ。即応的に派遣される医官、看護師、あと薬剤官や技官等いろいろな設営やらを行う隊員のみが先に現地へ向かう。あとから医療車両と他の技術職の隊員が航空自衛隊の輸送機を使って追いかけてくるという形で、その関連部隊は小牧基地へ向かっていった。
空港へ着くとマスコミがたくさん来ていた。そして空港内の一室にて最終の打ち合わせ。衛生隊隊長やらお偉いさんも来ていた。方面隊幕僚長から部隊旗を手渡され、僕が受け取る。僕は派遣部隊長。しっかりしないといけない…。そして急きょ集まった関連団体の人たちや家族に見送らる。その中にはたぶん急いできたんだろうね…忙しいはずの僕の養父が駆けつけていた。
「春希…。」
「お父さん…。家族のこと頼みます。特に美里は…今妊娠初期ですから…。色々不安定です。あと…優希が…。優希は前回の海外派遣の際にいろいろ心を痛めています。ですから…。」
「わかっている…。春希は現地の人たちのため、存分に働いてきなさい。」
といって珍しく人前でぎゅっと抱きしめられる。
「私はお前をとても誇らしく思っているよ。人のために今まで頑張ってきた。これからも…人のために…。」
お父さんは言葉を詰まらせている。本当は行かせたくないことくらい知っている。だから僕の派遣を反対するお祖母ちゃんに一言も伝えていないらしい。代議士の養子息子が危ないところへ行くなんてもってのほかだという考えがあるからね。でもそんなの関係ない。僕は人のためになるところへ行く。そのために医官になった。だから精一杯頑張るんだ。
もともと医療が整っていなければこの世になかった命。三つ子の中でいちばん小さく生まれ、長い間生死をさまよい、大きくなるまで色々持病を持っていたこの僕。医療のおかげでここまで生きてこれた。その恩返しをする。それが僕の務め。誰が何を言おうと…。ひとりでも多くの被災者を助けたい…その一心で今ここにいる。
出立時間が来る。一斉に敬礼をし、各自荷物を背負い部屋を出る。最低限の荷物以外を民間航空会社のチェックインカウンターへ預け航空券を受け取る。とりあえず定期航路でグアムへ向かう。そして米軍のグアム基地から米軍機で現地入りというプランだ。一般乗客に迷彩服を着た40人が紛れるわけだから目立つけれど、今のところこのプランが最短時間で現地へ着くという。
ほんとすごいマスコミ。一斉にフラッシュがたかれ眩しいくらいだ。なんだかんだいって日本史上最短時間の派遣だもの。注目されているのは確か。今まで派遣が遅いとか云々でバッシングされていたからね。そして搭乗口前でマスコミ向けかわからないけれど、一列に並び見送りの人たちへ向け敬礼をし、搭乗口へ入って行った。もちろんお父さんの姿が見えた。最後まで一生懸命手を振っていた。代議士という立場を忘れて…。もちろん秘書に制止されているのを振り切ってね。お父さんも今年国会で決議され、発令されたものに息子が派遣されるなんて思ってもいなかっただろう。だから余計に複雑なのだ。
機内で放映されている最新のニュースに僕らの派遣のことが報道されていた。もちろん代議士息子が隊長として派遣されたこともやんわりと伝えられた。