ミラー! (650)契約
関西へ帰る前に、美里の事務所との話し合いがあった。もちろん美里が完全引退かそれとも休養かということで…。事務所側は休養としてほしいみたいだね。でも美里はまだ迷っている。
仕事もしたい、でも家族を大切にしたい…。来年の春になれば、美里は4人のお母さんになるんだし…。
まだまだ手のかかる子供たち…。仕事なんてできないと言いたげだった。僕としては美里自身、家に籠るような性格じゃないことくらい知っている。だからこそ、なんとかできないものかと思う。特に美里は、今妊娠が判明したばかり。無理は禁物だ。僕は事務所の意向をじっくり聞く。もちろん、家庭と仕事の両立を考えたような内容だった。僕が東京にいるならいいけれど、いないしね…。近所に僕の親がいるけど、みんな忙しい。家政婦を雇ってもいいけど、それは嫌だという美里。
すると事務所側が、ある企画を持ち出してきた。それはなんというのか、育児雑誌専門の会社。それも妊婦さん向けの雑誌だった。
「誰か所属有名タレントで妊娠した人がいれば是非という企画なんだそうだ。真里菜なら知名度があるし、カリスマ性もある。毎月この雑誌の取材が入るけどね。ちょうど、真里菜の妊娠がわかって、この企画があったのを思い出してね…。今日ご主人をお呼びしたのもこれなんですよ。自宅取材もあるし…。」
そういやこの企画、数年前からやっている。前回は、有名芸人だったよね。とても好評で、この企画で雑誌の知名度が上がった。そろそろ次のタレントを探しているとは聞いたことがある。それか…。
「もちろん真里菜はこの雑誌取材だけをしてくれたらいい。ま、あとはこの雑誌のサイトのブログをできるときだけ書いてくれたらいいみたいだし…。どうでしょうか?ご主人。これなら家庭と仕事の両立ができますよね?」
「ま、まあ…。」
僕は美里のほうを見る。企画書をじっと見ている美里。まだ妊娠が判明したばかりなんだけどね…。もし途中で何かあったらどうするんだろうね…。
「美里はどうしたいわけ?」
「え?」
「決めるのは美里だろ?僕は美里がしたければしたらいい。生まれてくる子供にとっていい記念になるかもしれない。僕が家にいない分、何かするのもいいし…。今まで僕がいなかったとき、きちんと家事に育児、そして仕事をしていたしね。美里なら大丈夫だと思うよ。きちんと取材の予定は調整してくれると聞いたし…。それくらいならいいんじゃないかな?僕もできる限りこっちへ戻るしね。」
「春希さん…。」
もちろん美里は前向きに話を進めたいと言ってきた。今のところ、東京の病院で診てもらって順調だしね。僕もこっちへの転属希望を出している最中だし。うまく行けばいいよね。