ミラー! (629)家族
春斗の運転する車で市ヶ谷へ。さすが地元で秘書をしている春斗。ずいぶん運転がうまくなった。久しぶりに来た市ヶ谷。ほんと防衛省も同じ敷地にあるから厳重な警備態勢だ。入門証があっても、ちょっと時間がかかる。さすがにお父さんは元防衛大臣であり元総理大臣。一緒に行ってもすすっと中へ入っていく。
「ちょっとまだ時間かかるん?」
と2等空佐であるお兄さんが声をかける。
「申し訳ありません。最近いろいろ物騒なので…。」
「ま、わからんでもないけど、俺は統幕長の息子やし。ここにいるのはみんな親戚やで、早くできひんかな?始まる前に、父親と面会したいんやけど…。」
こういう時にイライラする春斗がイライラしていない。ほんと変ったね春斗。
何とか入門し、指定された駐車場へ車を停める。停めるとすぐに後ろのドアをあける春斗。それも雅美のほう…。
「雅美、大丈夫か?おなか張らんか?ほんま長い時間やったな。」
と…雅美だけ気遣う。ま、いいけどねえ…。
「ほんま調子ええなあ、春斗。雅美ばっかしやん。」
と笑いながら言うお兄さん。昔なら突っかかっていたよね。シスコンのお兄さんなら。それがまあ…丸くなって…。
「お兄ちゃん。だって、ここには弐條家の跡継ぎがいるのよ。大切にしなきゃね。」
とおなかをなでている雅美。そして春斗と微笑み合う。ああ、いい感じの夫婦像だね。春斗は雅美の荷物を持って、雅美と手をつないで歩く。人前では決して手なんてつながなかった春斗がねえ…。それも基地内で…。ちょっと笑えた。ずいぶん変わった、ほんとにね。時間は人を変えるんだと実感した。
控室へ通される。礼装を着た大叔父さん。そして横には着物を着た大叔母さん。いつも仲睦まじい理想の夫婦像。準備は万端だったので、時間が来るまで語り合った。今後のこと、そして一番盛り上がったのは雅美のおなかの赤ちゃんのこと。弐條家も源家も待望の男の子。これで肩の荷が下りたと大叔父さんと大叔母さんが微笑んだ。あとは無事に産まれてくるのを待つのみだとね。
「遠藤君、雅美の赤ちゃんが生まれたら、君に任せるよ。玲奈の時もお世話になったし、君なら安心だ。」
と僕の肩をたたく大叔父さん。玲奈ちゃんの病気に気がついたのはこの僕だし、色々したのもこの僕。一応自衛隊内の若手小児科医ナンバーワンだといわれているらしい。僕自身はそうは思わないんだけどね…今は週に一度しか小児科医らしいことはしていないしね。僕はため息をつきながら、雅美のおなかをじっと見つめていた。