ミラー! (616)隠し事
自宅へ戻ってきた。着替える元気もなく、ソファーに体を預ける美里。ずっと下腹部に手を添えている。僕はスーツを脱いで、カバンから聴診器を取り出す。
「おなかが痛いようだね?美里。おなかの調子が悪かった?」
美里は首を振る。とりあえず診察してみる。風邪でもなさそうだが・・・。
「美里、何か隠してない?言わないとわからないこともあるんだ。僕のこと信用していないの?小児科医でも診ることくらいできるから。」
美里は頷く。そして重い口をあける。
「あのね…。まだ病院へいっていないんだけど…。妊娠しているの…。」
「に、妊娠???いつわかったの?」
「半月前…検査薬で…。」
「なんで今まで黙っていたの?おなか痛いんだろ?出血してない?今まで無理してたんじゃないの?」
美里を責めているわけじゃないけど、きつく言ってしまったので、黙り込んでしまう美里。
「とりあえず、産婦人科へ行こう。幸い近所に大きな専門病院がある。今なら診察間に合うから行こう!ここではわからないから。」
と、僕は棚から保険証を取り出して、美里の手を引いて家を出る。ぽろぽろ涙を流す美里。医者なのに美里の妊娠に気付かない僕も情けない。気付いていたらいろいろと無理させていないのに…。
病院へ着き、手続きをする。この病院は有名な人気病院だから予約でいっぱい。とりあえず事情を説明してすぐに診てもらうようにする。待っている途中も周りからひそひそ聞こえてくる。立花真里菜がいるんだもんな。旦那に付き添われて。それも泣いているし…。
「遠藤美里さん、どうぞ…。」
と呼ばれる。
「ついていかなくてもいい?」
「いい、ここで待っていて。」
と、ゆっくりおなかをさえながら立ち上がる美里。そして10分後くらいに診察室へ呼ばれる。
「旦那さまですか?」
「ええ。はっきり言っていただいてもかまいません。僕は医師ですから。」
「では、はっきり言わせていただきます。」
と、担当医は、専門用語を交えながら淡々と話しだす。簡単に言うと流産。手術が必要で、即入院。超音波の画像を見ると、週数の割には小さいから、途中で成長が止まったのだろう。
美里は流産という言葉に涙を流す。そりゃそうだろ?せっかく授かったのに流産だから…。
僕は承諾書にサイン。そして入院手続きをする。これは仕方がないこと。美里が悪いわけじゃない。病院から優希の携帯へ連絡を入れる。優希は午前中で終わりだから、学校の隣にある幼稚園へ二人を迎えに行ってくれることになった。お母さんも忙しいのに美里の入院用の着替えを持ってきてくれるし…。僕はできる限り美里のそばにいることにした。
「ごめんなさい…ごめんなさい…。」
と謝る美里に、僕は何も言えなかった。ただ美里の手を握って微笑むくらいしか…。