ミラー! (613)ご指名
午後はイベント中心。なんちゃら試乗とかそういうの。試乗ができないというか見るだけの衛生隊機材展示は、本当に暇そのもの。これなら救護所のほうがいいな。それかお店。衛生隊は、毎年おもちゃくじなので、子供たちでいっぱいなのだ。そっちもいいけど、やったことない。基本的に曹士がするもんだから。
暖かい日差しについウトウトしそうになりながら、機材の前に立っている僕。時折、子連れに記念撮影を頼まれるくらいでほんと和やかだ。例の件を忘れそうなくらい…。
「中隊長、そろそろ時間です。」
時計を見ると撤収時間が近づく。
「そうだね・・・そろそろ。」
早く片付けて帰りたい。明日から東京へ戻るんだし…。
「中隊長、今週いっぱいまで休暇なんですよね?」
「んん…。金曜日は民間があるからこっちには戻っているけどね…。幹部付准尉に任せてあるから。」
「いいなあ…。家族水入らずなんですよね?奥さまは立花真里菜さんやし…。」
「家じゃ普通の女性だよ。家事もきちんとしてくれる…。ふつうふつう。全然女優オーラがないの知っているだろ?この前のBBQで。」
「ほんとマジ驚きました。あんなに素敵な女性だって…うらやましいです。」
こういうところで惚気話はやめたいけどね…。結婚してひと月経ち、落ち着いたんだよね…。
腕時計とにらめっこしているとき、部下に呼ばれる。
「中隊長、ご指名ですよ。」
え?っと思って部下のほうを見ると、女の子たち集団。ああ、来たよと思いながら、苦笑。
「遠藤さん!覚えてますか?防災展で…。」
「あ、覚えてますよ…。」
本当にうれしそうに僕の顔を見つめる女の子たち。かっこいいかっこいいと、キャーキャー言ってるんだよね。そんなにいい男か?僕って…。制服着るとかっこよく見えるもんだ。
「約束覚えてますか?」
「約束?」
「メルアド交換してください!って。本当ならお付き合いをお願いしたいんですけどね…。」
「あ、すみません…。ひと月前に結婚して…。今は妻子持ちですから…。」
「メルアドだけでもいいですか?もし会えたら交換すると…。」
そういやその場しのぎでいったね…。仕方がない…約束したんだもんな…。
赤外線通信でメルアドのみ交換する。もちろんこちらから送らないし、送られても返事の保証はないとね。すると、女の子のお連れさんが思い出したように…
「あ!この人って!確か…。」
「何、なに?」
「確か立花真里菜の…!」
はいはいそうです…。立花真里菜の旦那ですとも。違う意味で騒がしくなる女性集団。妻は女性たちの憧れだもんな。ファンが多いのも事実。
「あの…そろそろよろしいですか?撤収時間が来たので…。」
と、収拾がつかなくなった現状を何とかしようと声をかける。とりあえず写真を一緒に撮って帰ってもらった。
まあ、この子からこれから何度もメールが入ることになるんだけど、浮気なんて考えもせず、適当に返事できるときに返事していたのは言うまでもないけどね…。