ミラー! (602)呼び方
腰を怪我した次の日は休みでよかった。一応安静に…と言われたので、ベッドへ横になっていた。
「ねえ、お父さん…痛い?」
と、心配して未来がよく顔を出す。痛いけど、痛み止めを処方してもらっているから大丈夫。家にいるときは最低限の事だけでいいからいいけど、月曜日からの仕事…。とりあえず、隊長と准尉に事情を連絡して、朝一番に自衛隊病院へ受診する許可を得る。仕事中の怪我…。新婚早々、ああついてない。
「ねえ、お父さん。何か食べたいものある?」
と、気がつくと傍にいる未来。ふと思う。どうして未来は他の子供たちのようにパパと言ってくれないんだろう。できればパパと呼んでほしいな。なんか堅苦しいでしょ?
「未来。」
「何?お父さん。」
「未来はどうしてパパのことお父さんって呼ぶのかな?ママもこの僕の事をパパっていうよね。お兄ちゃんたちも…。」
「ん…わかんない。パパのほうがいいの?」
「んん…そうだね。お兄ちゃんたちもママの事、ママって呼ぶようになったでしょ?美里さんからママに。」
「んん…。だって、お父さんは未来の本当のお父さんじゃないんでしょ?未来のパパは、未来が生まれる前に死んだって、ママ言ってたもん。」
そういや美里はそう言ってたよね…未来が生まれた時。未来のパパは死んだんだって育てるって。でも本当のお父さんはこの僕なのに…。でも世間ではごく一部のものしか知らない。
未来は、記憶がないとはいえ、確かに僕と美里との一度きりの夜に、授かった息子なんだけど、その時僕は、家庭があった。大好きな妻がいた。そして妻のおなかには美紅が授かったばかりだった。美里に子供ができたと知ったのは、もっと後の事で…。未来が生まれるときに僕は、美紅よりも未来の近くにいた。そしてずっと未来の持病に関わってきた。今月末に臨時で主治医の一人として診ることになる。
未来はきっと、ママは胸の病気の先生と結婚したと思っているんだろうね。でもいずれきちんと話さないといけない時が来るんだろう。戸籍にはきちんと、未来が僕の子供であると書かれているわけだし…。もともと僕の婚外子…未来。今はきちんと未来のお父さんとして過ごすことができているんだけどね…。
「じゃあね、お父さんがパパって呼んでほしいなら、パパって呼ぶね。そのほうがいいよね。」
「うんそうだよ。未来は大切な子供だよ。お兄ちゃん達と一緒くらい大切だから…。」
未来はその言葉で微笑んだ。ほんと未来は僕の可愛い息子の一人。小さい頃の僕に最近似てきた未来。きっと本当の事を知る時が来る。それは真実なんだから、いいじゃないか…。