縁 (55)さよなら | 超自己満足的自己表現

縁 (55)さよなら

 指定された時間、お父さんがBMWで迎えに来た。僕と母さんのスーツケースをトランクに詰め込むと、車を発進させた。


「孝博さん、本当にごめんなさい。孝志のことでご迷惑を・・・。」
「いや、いつかこういうことが起きるとは思っていたよ。ただ、優希と孝志がああいう関係になるなんて思っても見なかったけどね・・・。もちろん俺にも責任がある。だから孝志は安心して、勉強したらいい。あと、その封筒の中に、今まで孝志のために貯蓄した通帳と印鑑とキャッシュカードがある。2000万入っている。困ったらそれを使うといい。外資系の銀行だから、カードで下ろせるよ。」
「ありがとう・・・使うかどうかわからないけれど、もらっておくね。」


お父さんは微笑んだ。ああ、これが本当の家族だったら、どんなに幸せなことだったろうか・・・。


「遥、孝志が留学中はどうするんだ?」
「石川に帰ります。私たちがイギリスにいる間に、私の父が引越しをしておいてくれるというので・・・。孝志の高校の終業式に出て、後は渡英まで孝志は石川にいるつもりです。」
「わかった・・・。」


この後、成田まで沈黙が続く。お父さんは旅客ターミナルまで送ってくれて、手続きまでしてくれた。


「じゃあ、俺はフライトがあるからね・・・。何年ぶりだろう・・・。孝志を俺の操縦する飛行機に乗せるのは・・・。確か孝志がまだ生後半年くらいの時だったかな・・・。じゃあ、またイギリスで会おうか・・・。」


お父さんは手を振ると、会社のほうへ歩いていった。ずいぶん早い成田への到着だったけれど、母さんと出国審査を済ませ、のんびり空港内で過ごした。携帯の電源はオフ。もちろん優希からの電話は一切通じないように設定をした。きっと明日は朝会えないことに驚くんだろうか・・・。さよなら優希。昨日もらったブレスを大切にするよ。さようなら・・・。