縁 (53)選択
少し落ち着いてから、母さんに実のお父さんと出会ったことを告白した。母さんは目に涙を浮かべて、僕に謝った。
「ごめんね孝志。ママのせいで、あなたがこんなに苦しまなければならないなんて・・・。この前の引越しの件だけど、おじいちゃんと話したら、どこか探してくれるって・・・。賃貸でもいいから探すって言ってたわ・・・・。」
「そう・・・。」
「孝博さんは何か言ってた?」
「別に・・・ただ忘れることはなかったよって・・・。」
母さんはさらに涙を流がす。
もうすぐ1月も終わりって頃かなあ・・・。お爺ちゃんがある書類を持ってきた。それは英語ばかりで書かれた書類。
「なあ、孝志。留学してみるのもいいんじゃないかな・・・。」
「留学?」
「ああ、ある筋から、いい学校を紹介してもらったんだ。全寮制の高校でな、日本からも数人政治家の息子が行っている学校がある。学校自体がそういう政治に関する学科があって、結構色々な国から留学生を受け入れているらしい。丁度若干だけど募集をしているらしいから、受験してみてはどうだろうか。英会話は得意だろ?」
「まあ・・・。中学の時はESS同好会に入っていたし・・・・。」
国を見るとイギリスだ。
イギリスか・・・。
留学すれば、優希とも顔を合わさなくてもいい。
「高校を卒業したらオックスフォード大学へ行ってもいいんじゃないかな?5年も日本を離れることになると思うけれど、何とかやれるよな、孝志。」
「んん・・・。受験してみるよ。編入できるといいね。でも母さんは?」
母さんは僕に微笑みながら言うんだ。
「石川に帰るわ。そして実家を手伝うから・・・。孝志も日本を離れたほうがいいと思うの。おじいちゃんはこっちに帰ってきたときに政治の修行が出来るようにしてくれるって言うし・・・。行ってらっしゃい、孝志。」
僕は承知して受験勉強に励む。そして2月初旬に行われた日本での選考試験に挑んだ。すると何とか合格した。もちろんこのことは優希には言わないつもりでいる。僕は父である弐條孝博さんには電話で伝えた。父は大変喜んでくれた。そしてイギリスに仕事で行った時は会おうって約束してくれたんだ。着々と進む留学準備。麻高にも留学するために転校すると知らせた。