縁 (51)父との対面 | 超自己満足的自己表現

縁 (51)父との対面

 「孝志君、食べないの?」


と優希がお皿に適当にとったものを僕に渡してくれる。僕は受け取り、せっかく優希が盛ってくれた料理を口に運ぶ。すると優希のお爺さんが声をかける。


「遠藤君、お爺さんは元気かな?たまに党本部で顔を合わすけど、ゆっくり話していないからね。」
「はい、祖父はとても元気です。次回の選挙で政界復帰したいとも言っていました。」
「おお、そうかそうか。遠藤春樹君もまだまだ私に比べたら若いからね。私は君の赤ちゃんの頃を知っているよ。一度お爺さんと君のお母さんと君とを総理公邸へ招いて食事会をしたことがあるから。やはり思った通りの青年になったね。将来は政治家かね?」
「はい。大学を卒業したら、修行をして出馬しようと思っています。」
「ほう、頼もしいね。お爺さんも大喜びであろう。これからも優希のこと頼んだよ。」
「は、はい・・・。」


優希はお爺さんに認めてもらったからか、とてもいい笑顔で僕の顔を見る。そしてお次は優希の友人4人組。


「ねえ優希、この人って麻高5の一人よねえ。」
「麻高5?」
「知らないの?麻高のイケメングループ5人組の一員だよ。いいなあ・・・優希が羨ましい・・・。あの、遠藤君。誰か紹介していただけませんか?麻高5意外でもいいですから・・・。」


もちろん僕は苦笑。色々世間話とか、モデルの仕事の話とかで盛り上がる。


「ちょっといいかな・・・孝志君・・・。」


と、優希のお父さんが僕に声をかけてきた。

き、きた・・・・。お父さんは僕をベランダに連れて行き、話を始める。何を話すんだろう。お父さんはベランダから綺麗に光る満月を眺めながら真剣な顔で僕に言うんだ。


「孝志君、訳を聞かずに優希と別れてくれないかな・・・。」
「え?」
「出来れば早く・・・。あの子の心の傷が深くならないうちに・・・。もちろんこの私が何とか優希に言い聞かすから。お願いだから、別れて欲しい・・・。」


僕はお父さんがどうしてそういうことを言うのかわかるから、聞いてみる。


「それは、僕があなたの息子だからですか?」


お父さんは目を見開いて僕の顔を見つめる。


「もしかして間違っていますか?」


するとお父さんは僕に微笑んで言うんだ。


「いつ知ったの?遥から聞いた?それとも孝志君の勘?」
「今まで僕はずっと遠藤芳樹を父と思っていました。でも、戸籍を見て違うとわかったんです。あと、夏休みに事故に遭って、初めて血液型を知り、そして石川の母さんの実家で、あなたの古い名刺を見つけました。そこには「源孝博」と書いてあってはじめ、僕がCMに出ている航空会社の人に所在を聞いてもわからなかったんです。色々調べるうちにあなたの実家へたどり着いたんです。そして実家で聞いたんです。あなたが弐條に婿養子になったと・・・。」
「そうか・・・。そうだよ。この私は君の本当の父だよ。でも、これは家族には内緒なんだ。そのほうがいいと遥が言ったんだ。この私の経歴に傷が付くってね。孝志はこの私のことを恨んでいる?ずっと君の前に現れなかったんだから・・・。」
「いえ・・・。知ったのは最近ですし、母さんやお爺ちゃんから愛情を一身に受けていたので・・・。」
「それはよかった。でも、これだけ言っておくよ。私は孝志のことを忘れていなかったよ。いつかは君に告白しようと思っていたのだから・・・。お金で済まされることではないけれど、君のことを忘れないように毎月養育費と思って貯蓄もしてきた。今のところ、私の家族に君のことを言うつもりはないよ。だから、今のうちに優希の前から姿を消してくれないか?君たちは出逢ってはいけない間柄だ・・・。お願いだ・・・。」


その言葉、痛いほどわかる。もちろん優希とは別れないといけないことも・・・。でも今すぐって言うのは、僕の心の整理がつかない・・・。せっかく出逢った理想的な彼女の優希。


「あの、ちょっと時間をいただけますか?絶対別れますから・・・。」
「んん・・・本当につらいことを頼んでしまって、すまん・・・・。もちろん君がこの私の息子でなければ、大賛成だったんだけどね・・・。じゃあ、頼んだよ・・・。」


そういうとお父さんは部屋に入っていった。やはりあの人は僕の本当の父さんだった。だから優希とは別れないといけないんだよね。僕と優希は異母兄妹なんだから・・・。