縁 (48)父を探す旅
「源孝博」が僕の父親とは限らないけれど、何らかの手がかりになるんじゃないかと、この人の所在を確かめてみようと思った。電話番号を調べることも出来るんだけれど、直接話が聞きたいと思った。思い立ったが吉日というように、次の日の朝一番の飛行機をとって大阪へ行く。もちろん最終便までには帰らないと・・・。
伊丹空港に着くとタクシーを拾い、住所に書かれた所まで行ってみる。だいたいしかわからない運転手は自衛隊総監部の正門前で降ろしてくれた。さあ、ここから探さないとね・・・。もちろんはじめて来た地だから、正門にいる警備官に聞いてみる。
「すみません、ここの住所を探しているんですが・・・。」
「えっとねえ・・・。あ、源元幕僚長のお宅?それならちょっと待っていて。」
警備官はどこかへ電話をかけている。
「源雅斗陸三尉が丁度夜勤明けで今帰るそうだから、その人に聞いたらいいよ。探している人の息子さんだから。ほら来た来た。」
幹部制服と思われる制服を着た若い自衛官が出てくる。警備官はその自衛官に敬礼をしてもとの位置につく。
「君かな?うちの家を探している子って・・・・。」
「はい・・・。」
この顔って・・・なんだか見たことがある。記憶を探ってみるけれど、なかなか思い浮かばなかった。この自衛官はここから歩いて数分の家まで案内してくれた。
「うちになんか用?」
「実は人探しをしているんです。」
「そう・・・まあここではなんだから、上がってよ。家には母さんと父さんと爺ちゃんがいるけど・・・・。」
するとその自衛官は家の玄関先まで誘導してくれた。
「ただいま、母さん、お客さん。」
「まあまあ、お帰り、雅斗。どなたかしら?」
自衛官は家に上がっていく。自衛官のお母さんかな?僕に上がってって言うんだけど、玄関先でいいといったんだ。
「何かしら?お話って・・・。」
「あの、この人を探しているんです。」
僕は古い名刺を奥さんに渡した。奥さんはじっと見てちょっと待っててといい、奥に入っていった。そして年老いた男性が出てくる。
「誰かな?この名刺は、確かにこの私の長男の名刺だけど・・・。」
「あの、僕は遠藤孝志って言います。どうしてもこの名刺の人に会いたくて東京から・・・。」
男性は僕に向かって苦笑し言う。
「孝博は今東京にいるよ。確かに私の長男だけれども、今は婿養子になってね、別の姓になっている。どうかしたのかい?孝博が・・・。」
「言ってもいいかわからないのですが・・・・。もしかしたら僕のお父さんかもしれないんです。違うかもしれないのですが、母の実家にその名刺があって・・・。この会社に縁があるのは母さんだけで、どうしてこの人の名刺があるのかさえわからなくて・・・。」
「孝博にそんな子がいるとはねえ・・・。君のお父さんってわからないの?誰だか・・・。」
「はい・・・。僕は知りません。ただ、母が妻子ある男性との間に出来たのがこの僕だって言うから・・・。母は、僕を見てお父さんによく似ていると・・・。」
男性はじっと僕の顔を見ている。そしてもう一人の年老いた男性が出てきた。
「父さん、この子、孝博に似ているか?」
「ん?どれどれ・・・。孝博というよりもお前に似ている。お前の若い頃にそっくりだよ。孝博もこういう顔だったが・・・。それがどうしたのか?」
「いや、この子がね、孝博の昔の名刺を持って訪ねてきたんだよ。孝博が父じゃないかって・・・。」
「あの孝博に限ってねえ・・・。」
二人の男性は僕の顔をじっと見つめて話している。そしてあるものを渡される。それは今の会社の名刺・・・。
『A社 成田空港支店 運行乗務員部 機長 弐條孝博』
え?弐條って・・・。そして裏には住所が書かれている。東京都渋谷区広尾4丁目・・・・。これって・・・優希ちゃんの家の住所?
「その名刺を持って帰りなさい。うちにも何枚かあるからいいよ。もしかしたら違うかもしれないけれど・・・一度孝博に聞いてみるがいい。お父さんが見つかるといいね。」
僕は挨拶をしてその家を出る。
弐條孝博・・・。
優希ちゃんのパパだよね・・・。もしこの人が僕の父さんだったら・・・母さんが言っていた事に辻褄が合う。真剣に付き合っちゃだめ、どうして出会ってしまったの?お父さんに似て・・・。そのとき母さんの言葉の意味がわからなかったんだけど、今やっと理解できた。手がかりどころか、この旅で真実がわかったような気がする。