縁 (47)母の言葉
優希ちゃんが帰っていったあと、母さんは夕飯の支度を始める。僕は今日誕生日だろ?でもケーキが食べられないから、母さん特製のちらし寿司を作ってくれた。母さんと二人でちらし寿司をつつきながら、話をする。
「ねえ、孝志。優希ちゃんって言ったわよね?今までの子達と同じようにお友達としてお付き合いしているのよね?遊びよね?」
「え?何言ってんだよ。今までの彼女とは違うってば。真剣だよ。」
「孝志、あの子はだめ・・・。真剣になっちゃ・・・。」
「どうして?僕さ、優希とずっといっしょにいたいんだ。丁度いいじゃん。母さんと優希のお母さんって知り合いなんだろ?どうして?」
「だめだったらだめなの!」
母さんは立ち上がって、キッチンへ向かう。今までこういうことに反対しなかった母さん。その母さんが声を荒げて反対している。そして理由さえ言わない。母さんは片づけをしながらつぶやく。
「あの子も、あの子のお姉さんもだめ。どうして出会ってしまったの・・・?本当にあなたはお父さんに似て・・・・。」
僕は母さんがつぶやく言葉が理解できなかった。母さんは片づけが済むと、僕に誕生日プレゼントを渡して自室に籠もってしまった。
本当におかしな母さん。優希と顔を合わせてからずっとおかしい。僕は部屋に戻り考える。あと母さんが言ったお父さんに似ているってどういうことなのかな?ずっと僕の実の父さんのことなんて気にしようともしなかったのに急に気になってきた。僕のどこが実の父さんに似ているというんだろう。顔?それとも性格?
ふと僕は財布の中に忍ばせてあった古い名刺を取り出す。源孝博とうちの関係ってなんなんだ?関係があるからこそ、母さんの実家に名刺があるんだろ?あの会社に関係ある人物といえば、母さんだけだよね。僕はパソコンを立ち上げて、グーグル検索にキーワードを入れてみる。
「J社 源孝博 副操縦士」
すると20年前の古い記事なんだけど、数件HITした。ナニナニ・・・。
『源孝博 12月25日生まれ A型 父は元陸上自衛隊幕僚長を経て、現在兵庫県防災担当副知事。家族はCAの妻と娘。経歴:学習院幼、慶応小、兵庫県立I高等学校、防大中退、航大を経て現在のJ社の副操縦士。パイロット訓練中にB777故障による胴体着陸を無事決める・・・・・』
後は大体同じような内容・・・。そういやお爺ちゃんの家族ぐるみで付き合っている親友に、元自衛隊の人がいたなあなんて思って、その人に源孝博のお父さんの住所が聞けるかどうか聞いてみる。
「どうした?孝志君。」
「ちょっと聞きたいことあるんだけど、今手元に退役幹部自衛官の名簿とかある?新しいほうがいいんだけど・・・。」
「んん、あるにはあるけれど、どうしたんだ?」
「人を探しているんだ。決して悪用しないから教えて欲しいんだ。」
「んん、まあ孝志君の頼みなら・・・。名前は?」
「苗字しかわからないんだ。源。元幕僚長をした人で・・・・。」
「二人いるよ。ま、この二人は親子だから同じ住所だ。源将直元幕僚長、この人は結構ご高齢だ、100近いかな・・・。後は、源博雅元幕僚長。この人は80近いかなあ・・・知っているよこの人なら。昔お世話になったことがあるから・・・。すごくいい人でね、確か今40歳代の娘と息子、そして年の離れた幹部自衛官をしている25歳の息子がいるよ。住所は書かれているところで間違いない。言うぞ、いいか?兵庫県伊丹市・・・・・ここは中部方面総監部の近くだよ。」
「ありがとうおじさん。」
「いや、いいよ。」
やっと探す手がかりが出来た。冬休みにでも探しに行ってこようと思う。実家さえ見つかればきっとわかるよね。