縁 (38)楽しい日々
あの男が家を出て行ったからか、うちの家は明るくなった。もうびくびくして過ごさなくてもいい。どうして今まで厳しかったあの男が急に僕がモデルになりたいと言っても反対しなかったか・・・。それは僕が政治家を辞めるというと思ったかららしい。でも今のところ僕は政治家になろうと思っているし、大学もそういう関係の学部を目指している。日々、勉強もしながら仕事も何とかこなしているので充実しているのは確かな話・・・。少なからずも、ギャラも入ってきて、ちょっとでも家に入れる。優希ちゃんともたとえ1時間でも会える日は会うようにしているし・・・。もちろんほとんど放課後になるんだけどね・・・。
南麻布にあるカフェで待ち合わせ。優希ちゃんはある雑誌を取り出して指をさす。それはあとひと月後に迫ったクリスマス特集の記事。20歳前後の女性対象のファッション雑誌で、クリスマスに彼氏にあげたい物と欲しいものという特集ページ。その彼氏役として僕が出ている。ま、相手は優希ちゃんのお姉ちゃんである美咲さんなんだけど・・・。
「孝志君かっこよく写ってるね。結構学校でも話題なんだよ。」
「優希ちゃん、このなかで欲しいものとかある?」
「優希ね、この指輪、可愛いと思ったんだ。このコートもいいなあ・・・。孝志君はなに欲しい?もうすぐクリスマスじゃない?丁度イブは孝志君の誕生日だからね。孝志君たら甘い物だめだから何がいいのか迷っちゃうの。」
僕は優希ちゃんの目をじっと見つめて微笑んでみた。優希ちゃんは真っ赤な顔をして目をそらす。
「どうかしたの?優希ちゃん。」
「え?もしかしてプレゼントは優希でいいなんていわないよね???優希にリボンつけてどうぞって言うのはちょっと・・・。」
え?なんていうことを考えているんだろう、優希ちゃんって・・・。そんなことなんて考えたことなかったよ。僕は噴出してしまって優希ちゃんはふくれっ面。
「あ!でもイブは毎年高橋叔父さんの家に行くんだった・・・・。」
「叔父さん?」
「あのね、ママの双子の弟で、参議院議員さんなの。奥さんはパパのお姉さんなの。うちの両親と一緒でいとこ同士で結婚したんだよ。でね、いとこのひかりちゃんがお誕生日でね、毎年お呼ばれしているんだ。あ、そっか孝志君と同じ生年月日ね。ひかりちゃんと。ひかりちゃんってね、優希に似ているんだよ。やっぱり同じような血縁だから?うちの血縁って結構似た顔なのよ。わかっちゃうんだから・・・。」
へえそうなんだ・・・。結局優希ちゃんは今年は行かないって断言してくれて、僕と過ごしてくれることになった。もちろんその日は休み。何をしようか、何をプレゼントしようか・・・今から楽しみでたまらない。