縁 (37)別居 | 超自己満足的自己表現

縁 (37)別居

 あの騒ぎから数日後、お爺ちゃんが帰ってきて、母さんの姿を見て驚いていた。もちろんどうしてそうなったのか直感的に気づいたらしい。そして母さんを抱きしめて謝っていた。


 もともと母さんとあの男が結婚したのも、お爺ちゃんの薦めだった。あの男はお爺ちゃんの元秘書。人前ではいい顔をして誠実そうに振舞っていた。この男ならと思ってお爺ちゃんは母さんとあの男を結婚させた。もちろんそれはこの父のいない僕のためであったのは言うまでもないけれど・・・。


「本当にすまん・・・遥。芳樹君の前の離婚理由を知っていれば、お前と結婚させなかったんだよ。芳樹君の裏の顔を知らなかったばかりに、お前をこんな姿にさせてしまった。これ以上遥を悲しませたくない。」
「お父さん・・・。私、石川に帰りたい。孝志を連れて石川に帰ります。」
「しかし孝志はいい学校に入れて、今モデルの仕事もしているんだぞ・・・。孝志が大学に入るまで辛抱して欲しい。孝志にはお前が必要なんだよ・・・。芳樹君と離婚しても構わない・・・。もちろんまだ芳樹君は任期中だから、密かに離婚という形にはなると思うが・・・。」
「でもお父さんの選挙区が・・・。」
おじいちゃんは考えて言うんだ。
「それならまたこの私が政界復帰すればいいことだ・・・。孝志が出馬できるまでのあと8年・・・。何とかがんばるよ・・・。」


母さんとお爺ちゃんは、あの男との別居をとりあえず決めたんだ。もちろんあの男は婿養子だから、追い出す形になるらしいけれど・・・。



次の日かな、お爺ちゃんは某所にあの男を呼び出してこう伝えたらしい。


「次の選挙は私が出馬する。もちろん後援会、そして私の秘書は返してもらう。そして手を回して与党からの公認もはずしてもらう。出馬したければ、自分の力で無所属として出なさい。いいね・・・。」
「しかし、お義父さん!」
「もうお前にお義父さんといわれる筋合いはない。任期が終われば、遥と離婚してもらう。それまではうちの党で割り当てられた議員宿舎に住み、今まで遥にしたこと、孝志にした事を反省しなさい。いいね。」
「しかし、どうしてそこまであの子をかわいがるのですか!不倫の末にできたあの子を!」
「それは・・・孝志の父親に政治家の血が流れているからだよ。我が遠藤家よりも優れた血がね・・・。それしかいえないんだよ・・・今は・・・。」


あの男は無理やり荷物をまとめさせられてマンションを出て行った。母さんはとても優しい表情となって、清々しい気分で日々を過ごしていた。