縁 (35)暴力
仕事を終え、やっとのことで自宅へ帰ってきた。すると家の奥が騒がしい・・・。
「ただいま・・・。」
と、リビングを覗くと誰もいない。そういやお爺ちゃんは地元石川に帰省中。家にいるのは母さんと今日休みの父さん。もしかしてまた父さんは母さんに当り散らしているのか?僕は父さん母さんの寝室へ向かう。するとやはり父さんは大声で母さんを罵っていた。そして時折ものを投げつける音。
「いい加減にしろ!お前は!!!これで5回目だ!いやもっとだろ!」
何の話?じっと僕は父さんの話を聞き入ってしまった。
「せっかくの俺の子をまた堕胎させやがって!!!もう42のお前が、これ以上俺の後継者を産むことができないだろうが!!!!」
「私はあなたと結婚する前に言った筈です!あなたの子供いらないと!」
「お前との子じゃないと意味がない!俺と遠藤家の血が入った子じゃないとだめだ!あの父親が誰かわからないようなクソガキに俺が手に入れた地位を渡せるか!!!あの死にぞこないのクソガキ!あの事故で死んでくれていればよかったものを!!!!」
僕は寝室のドアを思いっきり開けて、母さんの前に飛び出す。
「孝志・・・。」
「母さんは黙ってろ。いつまで父さんは母さんを痛めつけたら気が済むんだ!お前のせいで母さんはどれだけ苦しんできたのか知っているのか!!!」
父さんは僕の胸倉をつかみ威嚇する。
「殴れるもんなら殴れよ!このくそオヤジ。僕はお前が僕の父じゃないことぐらい知っている!殴れるもんなら殴れ!その代わり警察に行ってやるからな!色々お前が裏で悪どいことをしているのも知っている。僕はそこまで馬鹿じゃない。これ以上母さんを痛めつけるのならでるところへ出てやるから覚えておけ!」
父さんいやこの男は手を離し、寝室を出て行く。僕は母さんを抱きしめる。母さんはぎゅっと僕の服を握り締めて、震えていた。
「孝志・・・ごめんね・・・。」
「いいよ、別に・・・。母さん、早くあんなやつと別れなよ。身が持たないよ・・・。僕はあんな男いないほうがマシだ・・・。」
母さんはずっと僕に謝ってばかりだった。
母さんは相当暴力を受けたのか、体中アザだらけ。僕が母さんを守っていかなきゃ・・・。このとき僕は本当の父さんが誰であろうとどうでもよくなっていた。まずは今まで苦しんできた母さんをどうにかしてやらないといけないと思ったからだ・・・・。